三 ルイズ
二 ルイズとシエスタ へ飛ぶ 夕暮れも深まったところで、才人はケリ起こされた。
響く罵声は我らがゼロの使い手である。かわいらしい声をかわいらしくない口のききかたで台無しにしながら喚いたところを要約すると、つまりこういうことらしい。
いつまでここにいるつもりか。とっととテントをたたんでしまえ。お前の業務を忘れたか。
才人の業務などあってないようなものだ。ただ四六時中ルイズのまわりをうろついているだけに近い。
つまり、仲直りしようとルイズはそう言いたいわけなのだ。そうと素直に言えないのがルイズのルイズたるゆえんである。
シエスタの姿が見えなかった。こちらはとっくに通常業務に戻ったらしい。
才人はぼんやりと、夜更かしさせて悪かったな、と思った。
感傷モードに移行しかけた頭をどやしつけられて、さしもの才人もふてくされる。
「いって……なにも叩くこたないだろ」
「あら。体罰はしつけの基本だわ。とくに言葉の通じない使い魔にはそうしろって教科書にも書いてある」
「そりゃ対動物だろうが。暴力女ー。暴力はんたーい。ノーモア暴力ー」
ルイズはやたらでっかい目で『ぎろっ!』と才人を睨みつけた。静かな怒りが熾き火のごとく燃えている。
「なによ、犬の分際で。きゃんきゃんうるさいのよ、犬」
「おお、お前、ふたことめには犬犬ってなあ、いくら俺でも」
「うるさいわよ、犬。あんたなんか犬は犬でも小型犬ってところね。脳みそが足りないのよ。かわいがられるだけしか能がないくせに」
「は、あああぁ? 誰が、いつ、かわいがられてたって言うんだよ、この虐待DV女!」
「あっちこっちに尻尾振って媚び売って、女にかわいがられて嬉しいかって言ってんのよ、この座敷犬!」
ルイズは天然の釣り目をさらに凶悪にしてみせた。赤い瞳孔が、怒りを一周して、いっそ楽しそうに爛々としている。
こうなったら手がつけられない。ルイズ怖い。ルイズちっとも手加減しない。
でも今日の才人も一味違う。
なにしろシエスタに慰めてもらった。
蛮勇を振るって言い返す。
「その、座敷犬がかわいくて仕方ないのは、誰だよ?」
そのときのルイズの反応は、それはもう才人にしてみれば不可解も極まった。
「なっ……! ばっ……あっ……!」
舌がもつれたらしいルイズはうわごとを洩らしながら、真っ赤になってしまったのである。白い頬に赤みがさしたというよりも、真っ赤なりんごに紗を一枚そっと重ねたようなゆでダコっぷりだった。
「……え?」
「あっ……あ……」
何かを言おうとして、結局言葉にならなかったらしい。ルイズはいつものように『つんっ!』と顎をそらしてふんぞり返った。腕など組みつつ、きびすを返す。
「ばっかじゃないの! いいから早くしなさいよね!」
部屋に帰るなり、ルイズは着替えをするから、と才人をまた廊下に追い出した。
どうせつるぺたのくせに、と思っても、さすがの才人もそこまでは言えない。
「もういいわよ」
扉を開けて、才人は息を呑んだ。
ルイズはいつものネグリジェ姿で、髪をとかしていた。そうして見てみると、ルイズはやっぱり愛らしい。
「……顔だけは……ち、ちくしょう、顔だけはほんとに……」
才人はなんだか泣きたくなった。
ルイズは不器用な手つきでみつあみもどきを作ろうとしている。そんな様子を見ながら、フラフラとベッドに寄ると、急に眠気の低気圧が押し寄せてきた。
ぼふっ、とベッドに倒れ込みつつも、目線だけはルイズから離せない。
とくにクッションのあたりが才人の視線を吸い寄せた。
手も足も棒っきれのようだが、小さなおしりとふとももだけは、ほんのりふっくらとほころびはじめているルイズである。彼女はネグリジェのときはパンツをはかない主義らしく、裾のレースが乱れて、素の肌がちらりちらりと悩ましくのぞけている。おしりのちょうどいちばんまるいところが、ルイズが姿勢を直した拍子に露出した。
一気に昨日のシエスタがフラッシュバックした。
まずい、と思ったときには遅かった。
ごろん、とルイズに背を向けて、自己主張する自分の股間を、屈曲させた足の間にそっと隠した。
シエスタも白かったが、ルイズも白い。
シエスタの白さは、温かみのある柑橘系の肌色の白さだ。
対するルイズは、健康的な桃色の白さをしている。
シエスタの口、あたたかかった。シエスタずるい。そんなことされたら我慢できない。
なんとなくシエスタの手つきを真似して、そっと位置を直してみたりする。
ズボンが窮屈だった。締め付けられて痛いくらいだ。
ちょっとくつろげるくらいならいいだろう。
才人は掛け布団にくるまって、金具を外しにかかった。
「――寝るの?」
ルイズのふいうち。才人はフリーズした。
「……もう寝ちゃったの?」
返事がないのを気にしてだろうか。ルイズの気配が、がさごそと身じろぎしている。とっとっと、とあぶなっかしい足取りの物音。
才人は目を閉じた。
寝たフリをしろ! と本能が告げたのだ。
ぎしっ、と耳のすぐ横でスプリングの軋む音。ルイズの髪の甘い香り。目をあけなくとも気配で分かった。ルイズは逆側から無理に体をねじって、才人の寝顔を覗きこんでいるらしかった。才人の背中側に立ったルイズが、才人の頭を覆うようにして、両手を才人の顔のあたりにつっぱらかせている。
魂も凍る数秒。
やがてルイズは、才人から離れた。さら、とルイズの髪が鼻の頭をかすめていった。
胸を撫でおろしたのもつかの間。
ルイズは才人と向かい合わせるようにして、ベッドにもぐった。
見えていないのに分かるのは、聴覚がありえないほど鋭敏になっているせいだろう。
「くー……くー……」
ひたすらタヌキ寝入りを決め込む才人。
手に、つん、となにかが触れた。ぎゅっと握られて、ああ、ルイズの手のひらなのか、と思う。
ルイズの手は小さかった。やっぱりルイズは頼りない女の子なんだな、とぐっとくる。
ルイズかわいい。ルイズ抱きよせたい。
煩悩うずまく才人の邪念が起こした奇跡なのかもしれない。
「あのよう……娘ッ子さんよう……」
「何よ!」
「あー、その、眠れなくてお困りなのかなー、とか思いやして……」
それはデルフの声だった。こころなしかおびえているようにも聞こえる。
「そういうときこそ昨日のアレをだな……」
「なによ! それ以上なにか言ったら折るわよ! 蛇腹に!」
「……わーったよ……」
デルフはそこでひときわ声を大きくした。
「あーあー、やってやりゃあ、相棒すんごく喜ぶってのによー」
つられてひそひそやってたルイズも声を出す。
「……よ……ろこぶ? のかしら?」
「おー。血に飢えたオオカミぐらいの勢いで飛びかかるだろうになあ。もったいねえ」
やっぱりか、と才人は思った。
昨日の騒ぎは、またデルフがルイズをそそのかして何かさせようとした顛末なのだ。
あんちくしょうめ、と思いつつも、固唾を呑んで『オオカミ……オオオ、オオカミ……』を繰り返しているルイズには、何かこう、とてつもなくいい予感がしてならない。
それから何分経ったのだろう。寝れる気配もなく才人が悶々としていると、ルイズの様子が少しずつ変容してきていた。物音、というほどのものでもない。あえかな気配から、ルイズもまた眠れずに切々と時間を食んでいるらしいことは伝わってくる。
「――ん……」
はじめはルイズのため息だった。
ついで、はあっ、と、荒い息が吹きこぼれる。
熱に浮かされたときでもこうは寝苦しそうにすまい。
ルイズ、どこか調子が悪いんだろうか……?
まぶたをうすらぼんやり開けてみて、才人は体のどこかが縮み上がった。
ルイズは体をこちらに向けて、ネグリジェをウエストまでまくっていた。足の付け根の三角ゾーンがまる見えである。
――ルイズのそこは薄い桃色をしていた。驚くべきことに、毛がまったく生えていない。
そして指先で、ぐりぐりと、外側の柔らかい肉の、ちょうど分かれ目あたりをいじっている。そりゃもう一心にぐにぐにしている。
熱中するあまり、ルイズはこちらの様子まで気が回らなくなってきたらしい。
うっとりと目をつぶったまま、ルイズは土手のところを蹂躙していた。熱を帯びてただれた繊細な肉を残酷な外気にあますところなくさらけ出していて、ルイズの指がこね回すたびに、ぬらりと妖しくピンク色にてら光る。
ちゅく。くぷ。
生々しくも粘度のある水音。
「――はぁっ……っく……」
かみ殺しきれない、熱っぽい息遣い。
握った手がずいぶん汗ばんでいる。
ルイズはスプリングを軋ませて、天井を向いた。感応する体の動きも、いよいよ隠せなくなってきたらしい。びくんと体が痙攣するのを誤魔化すように、反対側を向いたり、またこちらに戻ってきたりしている。
……こんなの鈍い才人にだって分かる。
ルイズ、自分でしてる。
俺の手を握り締めて?
「……ぁっ……い、と……」
ルイズがなにかを囁いた。それが、才人、と、自分の名前のように聞こえたのはなぜだ?
な、なんなんだこれ。ルイズのやつ、俺が起きたらどうするんだ。隣でそんなことされて俺が襲ったらどうするんだばかやろう、っていうか、もう襲ってもいいですか!
というところまで煮詰まった才人は、くわっ、と目を見開いた。
「……ルイズ……ッ!」
「ふぁ、あ、きゃああぁぁ!?」
がばーーーっ! と才人はのしかかる。ルイズ、びっくりしてじたばた暴れる。
「ルイズ、俺のルイズッ!」
「おもっ、おもた、才人、くるし――」
ルイズが猛然と抗議しかけたところへ、すかさず才人が口づける。
「ん、んーーっ! んーんーっ!!」
もがくルイズを完全に押さえつけて、才人はルイズの唇を貪った。ルイズの唇は薄く形よく、小ぶりで、上品だ。赤ん坊のようなピンク色の唇を舌先でちろちろと舐めまわし、顎に手をかけてむりやり口を開かせると、舌を深いところまでねじ込んでやる。
ルイズが生意気そうな目をかっと見開き、素早く手をふりあげる。その手をつかみ、ベッドにおさえて縫いとめる。逆側の手も同じように拘束した。
ちゅ、ちゅ、と唇といい舌といいついばみ続けていると、やがてルイズのあがきが弱々しくなってきた。キスをやめて上から見下ろす。
才人自身が作った影の下で、ルイズは夜目にも分かるほど頬を高潮させていた。とろんと焦点は定まらず、もはやまともに前を見ていないようだ。
「ルイズ――いいよね?」
ダメ、とも、何が、とも、ルイズは答えない。
おかしい。ここまでシていたら、すかさず甘え声でうん、と言ってくれてもよさそうだ。
才人は焦れて、ルイズのおでこにもキスをした。ピンクの髪が何本か、才人の口にくっついた。こめかみにもわずかに唇をかすめながら、耳たぶを噛む。
「やっ……はぅうっ……ぅぁ……」
ルイズはぞくぞく、と、背筋をふるわせる。ルイズは体全体がとても小さい。少し力を入れたら毀れてしまいそうだ。噛まれているのと真逆の方向へせいいっぱい横顔を背け、小さな唇に、ぷっくりとした手の甲を押し付けている。それが精一杯の抵抗だとでもいうように。
幼くおうとつのなだらかな鼻梁とおでこの間に、ひそやかにひそめた眉があり、思いつめたようにつむった大粒の瞳がある。その目じりには、薄く涙さえ、盛り上がっていた。
「ルイズ、ねえ……」
「やぁぁんっ……じょっ……だんっ、じゃ、なっ……あ、はぁん!」
悪態の後半は、首筋を吸ってやったら掻き消えた。
才人はルイズの信じられないほど細くて小さいルイズの身を抱きしめながら、もう夢中になってキスしまくった。なめてなぞって、それでも足りなければ、吸いあげた。
それでも鎖骨のあたりで留まっていた。それ以上南下するのには、ためらいがあった。ネグリジェの襟ぐりをいっぱいに伸ばして、伸ばせるところにまで舌を這わせた。
顔をあげて、ルイズの胸部を見る。小さな突起が、ネグリジェを持ちあげて硬くなっている。それを爪でやさしく弾いてやると、ルイズは鳴いた。
「あぁ……っ!」
はっきりとそれは嬌声だった。信じられないくらい艶やかで、いつものルイズからは想像もつかない。
ルイズのかわいさは少女固有のものだった。その少女が、こんな色気を隠していたなんて。
才人はネグリジェの裾をからげた。しゅす、と上品なシルク特有の音を立てて、ルイズの肢体が暴かれる。
「やん、やぁ……っ!」
このときばかりはルイズもすこし焦ったようだ。惚けた瞳が本来の勝ち気な釣り目の形をとりもどし、すぐにくにゃっと泣き顔になる。頬骨からこめかみにかけてをピンクに染めて、同じピンク色の髪が、さらさらっとそれを縁取る。拘束されていた手が自由になっても、気のない猫のパンチのようにぱたりと才人の腕を叩くくらいしかできないらしかった。
両足の付け根は、巧みに足をくねらせて、才人からは見えないように抵抗していた。
腰がゆるくくびれを帯び、いちばん細いところに縦長のおヘソが見えた。落ち窪んだ腹部を過ぎ、痛々しく浮き出た肋骨が現れる。ネグリジェをさらにたくしあげる――
ルイズの乳首も、あざやかなピンク色をしていた。
そこにも才人はキスを降らせる。
唇の、ほんの皮一枚がかすめただけで、ルイズは今までで一番強く反応した。
「――あ……ッ!」
それはよがり声というよりも、調子外れのソプラノだった。ざざっ、と、体ごと逃げようとするルイズを捕まえて押さえつけ、舌を絡ませてやると、ルイズはびくんびくんと体ごと反応する。必死に才人の髪を引き、ひっぺがそうとおでこを押し戻しはじめた。
「だめぇ、だめなのぉ……っ!」
才人はすでにデキあがっていたから、とにかく強気に出た。『やめていいの?』と囁きながら、ふとももの内側を撫でたりなど、してみる。ルイズの肌はむきたての卵のようだ。つるんと、閉じても隙間のできるルイズの細いふとももをさかのぼり、つまめないふとももの肉をあえて掴んでは揉んでやる。
「あン……ぁふ……うぅ……」
ルイズはもじもじしはじめる。思考停止した顔つきのままで才人の手をふとももでやんわり挟んで、さりげなく奥まで導くルイズに、才人は逆らわずに従った。
「触ってほしい?」
才人はイヤミに聞いてみる。
「……っ、ばか!」
ルイズは才人の胸をぺちんと叩いた。
「……そ、そんなこと、したら、ゆるさない、んだからねっ……」
「じゃあ、やめよっかな」
才人は手を離そうとした。しかし、きゅーっ、とふとももにくわえこまれて動けない。
「はは。ルイズ、これじゃやめられないよ?」
ルイズの耳をはみ、才人はねっとり嘲るようにささやいた。ぴくん、とルイズの肩がこわばる。怯え縮こまった体を抱きしめて、さりげなく無理に才人に向かってからだを開かせる。
「ルイズ……分かる? ルイズのここ、えろくなってる」
「し、知らな……っはぁっ、あ、や、だめ、それ、や、やっ!」
才人は執拗に耳を舐めとりながら、腿が弛緩したすきをぬって手を這わせる。足の付け根の肉がゆるやかに盛り上がっていて、丘のような傾斜がついている。さきほどルイズが一心不乱に押したり揉んだりしていた部分である。
「ルイズ、触りたいよ、触ったらきっとルイズ気持ちよくなるよ」
「るさ、や、ひゃあん! あ、や、やだ、変なふ、に、ちから、入れたら――やぁっ!」
触った。
ルイズの体温に温められて、バターのように体液が溶け、しみてきている。
濡れている。
漫画やAVでしか見たことのないあの現象が、ルイズの身にも起きている。
ぬめる指を引っ込めた。
才人は、するっ、と、ルイズのふとももを持ち上げた。あいだに割り込んで、おなかとおなかをくっつけあう。
ぐぷ、と、亀頭の先端で恥丘を押しつぶした。柔らかい肉のひだが、くむ、と、頼りなく形を変えて才人のものを包み込む。
とろ、と、脳髄に直接甘い液体を流し込まれたような感覚がした。
「あ、ふぁ――やぁ……ああっ、んっ、うぅっ」
「わ……やわか……」
少しのつもりがあまりの気持ちよさに、ほとんど粘膜をすりつぶすようにしてうす桃のびらびらを上下ににじってしまう。ぐりぐりと夢中で押しつけていると、ルイズの腰もかすかに動いているのに気づく。
気持ちいいんだ。
才人は頭が爆発しそうになった。
入れたい、突っ込みたい、ぶち込んで、壊れるまで突きたい。
今日までよく耐えたと自分でも思う。そのタガが、ことこの局面になってとうとう外れた。ほんの一センチ先にルイズの秘密の部分がある、それもたっぷり濡れてくぱっと口を開けて、才人が入ってくるのを今か今かと待っている。
才人は身を屈めて、ルイズにキスをした。それから端的に囁く。
「ルイズ――入れるよ?」
ぶっちゃけると才人は、どこに入れればいいのかも分からない。やみくもに先端を押していって、ようやくひときわ熱い部分にたどりつく。割れ目を指でよく割り開き、ここか、と思うところに、とにかくもう押し込んだ。
角度と深度を少しずつずらして調節し、強制ハッキングを敢行していると、他よりもわずかに深く潜り込める場所がある、と思ったら、今度はルイズが騒ぎ出した。
「いた、た、いたい、才人いたい、ねえっ」
ルイズはみるみるうちに真顔を取り戻す。
「ルイズ、もうちょっと、んっ――もうちょっとだから、ね、」
「やだ! 痛いよ!」
本気で怒られる手前で、才人は腰を引いた。
いやもう、留まれたのは奇跡に近く、途中でうるさく喚くルイズにちらっと敵意が沸いたほどだった。
まだ全部入ってもいない。ちょっとくらい我慢してくれたっていいのに。
『痛いけどがまんする、あ、でも、キモチよくなってきちゃった、あん』
これが才人の理想形だ。
そこまで言うのは酷だとしても、ほんとにあとちょっとだけでいいのに。
急に醒めていく自分がいた。予想外の反応をされて、忘れていた自分のモグラの部分が顔を覗かせたのだ。
「ごめん、痛いよな。俺、こういうの初めてだから。痛かったらちゃんと言って」
また甘くキスをしてやると、ルイズは夢見ごこちでうなずいた。それを見て、才人はふ、と意地悪く笑う。実際、ちょっとだけ、頭にきていた。こういう言い方はルイズが嫌がると知っていながらも、つい口が勝手に動く。
「……はじめてだね、ルイズが痛いって言ったの」
「う……うん……?」
「いままでのは、キモチよかった?」
「~~なっ……!」
ルイズはあうあうと悔しそうに呻く。結局言葉にならないところが図星をつかれたと如実に語っているのだが、モグラの才人はそうは取らない。ひょっとしてものすごく傲慢なことを言ってしまったのではないかと、どんどん自信を喪失していく。
「や、やだって、わたしヤだって言って、だいたい才人ってば強引で、わたし許してなんか」
焦る才人はもうまともに取り合わず、乳首をつまんだ。
「いな、――あン……ふ、ぇ、ぁぅぅ……」
「ルイズ、やらしい。ヘンタイだね?」
「ば、ばかっ、……もう、いやあ……ふぇえ……」
言葉とは真逆に、触るごとにさざなみが走るルイズの体がおかしい。快楽の神経パルスがうすっぺらのおなかにもせなかにも伝染していくのが、ルイズを抱きしめている才人にはよく分かる。
「ルイズ。ごめん、俺もう限界。痛いだろうけど、でもそれは初めてだからで」
「知ってる」
ルイズがぶっきらぼうに言う。
「いいわよ」
「ルイズ――」
「あ、あ、あんたが気持ちいいなら、……いいわ。ちょっとだけなら、我慢する」
不覚にも才人はじんとしてしまった。やっぱり本音では俺のことをと嬉しく思う。
「好きだよ、ルイズ」
「……やめてよ」
本心からの告白だったが、ルイズに邪険にされて、さらにその言い方があまりにも刺々しく冷たいので、また才人は焦りはじめる。
「ほ、ほんとだよ、ルイズ」
「ほんとに好きなら、私に痛い思いなんか、させない」
それはそうだけど、と、才人は苛立つ。
「はじめだけだよ、痛いのは。だんだんルイズも気持ちよく」
「知ってるわよ。そうじゃないのよ」
ルイズはなにやら悲痛な顔つきをしている。ばふ、と枕に埋めた横顔にのぞく、釣りあがった目の端が、不自然に濡れて光った。
「もう、早くしなさいよね!」
才人はむっとするままに、なんだよそれ、と言い返しかけて、やめた。ルイズの様子がおかしいのも気になる、が、それ以上にいまはルイズと繋がりたい。
ほっぺたにいくつもキスをしてやってから、才人は再び侵入を開始する。
「あッ――つぅ……た、い、たた……っいっ、い――!」
みちっ、ぬちっ、と、ゲートが限界まで弾性を発揮している感触がする。その向こう側に、いけそうでなかなか辿り付けない。
「痛っ! いた、いたいいたい!」
「ごめん」
「あ、謝らないでよ」
じゃあどうすればいいんだよ、とは言わないでおく。
「いや、いた、ほんとに痛い、さ、才人っ!」
仕方なしに振り出しに戻る才人。
「あと、ちょっとなんだけど」
恨みごとのように呟くと、珍しくルイズはしゅんとなった。
「わ、分かってるけど、ほんとに痛くて――」
才人は続けて言い募る。
「ルイズずるいよ。自分から俺のこと誘っておいて、いまさら止めろだなんて」
「さ、誘ってなんか!」
「じゃあなんで、あんなことしてたんだよ」
「あ、あんなことって?」
「ここ、触ってたろ?」
才人はルイズの恥部を、自分のものでつん、とつついてやった。
「さ、触ってな――」
「俺の名前呼んでた」
「呼んでない!」
照れてるだけだ。取り合っちゃだめだ、と思いながら、才人はむっとする自分を止められない。才人の言い分はごく正当なものだったが、プライドが高くて傷つきやすいルイズがからかわれれば恥辱のあまりに裏腹な言動に出ることくらい、冷静に考えれば分かりそうなものである。
苛立って焦っている才人は、そこまで考えが及ばない。
「俺のこと、好きなんだろ?」
「なにそれっ! 何調子に乗ってんのよ、嫌い、嫌いよッ! ほんと嫌いッ!」
才人は、萎えつつある自分を自覚した。
ほんのひとことでいい、ルイズが『して』と言ってくれたなら。まるで自分は被害者だとでもいいたげな口ぶりが、才人はどうしても受け入れられない。
「だいたいあんた、使い魔風情がご主人様にこんなことして、ただで済むと思ってるの!?」
ほんとに小憎らしい口をきくルイズである。
「――分かったよ」
才人はルイズから離れて、手早く服を着込み始めた。
扉の外に飛び出す前に、捨てゼリフを残すのだけは忘れない。
「悪かったよ。もうしない。じゃあな」
「――え……」
あとには取り残されて困惑するルイズだけが残された。
四 キュルケ へ飛ぶZEROのつかいま 目次ページ へ飛ぶ
- 関連記事
-
Information