「んんっ……」
凛がごろりと寝返りを打つ。体が熱に浮かされたように火照っていて、なかなか寝付くことができない。
一人きりになってしまった屋敷の寝台で、何度寝返りを打とうとも、シーツがするすると鳴く音がするだけで、あたりはしいんと静まり返っていた。優しく手を伸べてくれた母も、もういない。
目が冴えてしまっている原因は、分かっていた。
――にゅぐっ……ぬちゅっ……ずずっ……
胎内に、丸々と肥え太った蟲が一匹、がっぷりと食い込んで離れないのだ。
「はぁっ……あうぅ……」
凛自身の手で抜き取ろうと、中の襞をかきわけ、懸命に小作りの指先で中をかき乱してみたものの、虫の表面はつるつるとしていてとっかりがなくて、巧みにぬるりと逃げてしまう。
それが四六時中、凛の体を苛んでいた。
おかげで凛のそこはお湯でもこぼしたようにとろとろあわあわと体液が滲み出し、何度下着を履き替えたって、すぐにぐしょぐしょになってしまう。
棒切れのように幼げな脚を、下着やタイツで厳重にくるみ、シーツの上にタオルを何枚重ねても、すぐに濡れそぼる気持ち悪さで目が覚めてしまうのだった。
「もう! なんなのよー!」
じくじくと、腰から下が切なく疼く。凛は短気を起こして、パジャマと下着をまとめて脱いでしまうと、グロテスクな蟲ががっちりと食い込むつるつるの肉の合わせ目に、こじ開けるようにして指を差し挟む。
「んんんっ……!」
こぽっと泡を立てて、中の蜜がこぼれていった。ぬめる襞を指の腹でぐにぐにと割り開き、中の蟲に爪を立てて引き出そうとする。ぷちゅり、と蟲の皮に爪がささって、芋のような蟲の体が、ずぷり、とわずかに引っ張られる。
「あ、あ……だめぇっ……♥」
蟲のまるっこい体が、凛の小さな入り口いっぱいに膨張しているだけでもおかしくなりそうなのに、それを引き抜こうとすると、擦られた媚壁いっぱいに電撃が走ってしまって、それ以上指の力が入らなくなってしまう。
「う、く、くぅぅっ……♥ もっと……強く、強く引っ張ればぁっ……♥ あはぁっ……♥」
蟲の体が中ほどまで抜けたかと思うと、外気の寒さに身震いしたように蟲が命を吹き返し、自分で勝手に中まで戻っていってしまう。ずず、ず、ず、と、蟲が体を蠕動させて、内壁を遡り、奥までもぐりこんでいく。
「ひぃっ……イィン……いぃぃぃ♥」
子ども特有の甲高いソプラノが、ありうべからざる嬌声になって、かわいらしく室内に響く。声をあげながら目だまをひっくり返して体をくねらせる凛の、小さな股の間で、黒光りする蟲が、じゅぷじゅぷと潤滑液を噴き出しながらひどくゆっくりうごめいている。
充血し、シロップを垂れ流す桃のような合わせ目に、凛は夢中で指先を這わす。付け根のぷっくりと膨れ上がった小さな木の実のような粘膜が、蟲の胎動とは違う快感を、幼く脆い凛の脳に、びりびりと放流してくることが、おぼろげながら分かってきていた。
「ぬ、抜けそぉっ……♥ 抜けそおぉぉっ……♥ もすこしでぇっ、あぁっ、抜けそうだよおぉっ……♥」
蟲の頭を引っつかみ、気が遠くなるほどの快感をがまんして、少しずつずりずりと引き抜いていく。
蟲が遅々とした動きで胎内に戻ろうとする動きが、凛の敏感な粘膜を暴虐にこすっていって、それだけで凛の目の前はちかちか七色に光ってしまう。
「あぁっ! 抜きたい♥ 抜きたいよぉっ♥ もうちょっとだからぁっ♥ お願いだからぁっ♥」
石を積み上げては崩すように、虫を引き抜こうとしては元に戻る作業が延々と続き、凛はこらえきれなくなって、しゃにむに指を動かしてしまう。
「くぅぅぅぅんッ……♥」
生意気そうな顎をくんっと可憐につきだして、愛らしい大ぶりの瞳をとろっとろの快楽に歪ませて、凛は手もなく果ててしまった。
疲労が、泥のような眠気をつれてくる。
***
次の日も、その次の日も凛は自室にこもりっきりだった。
「はいっ……んンッ……まだ熱があるみたいなんです……
はうぅぅんっ♥ ……いえ、なんでも、ありませ……きゃふぅっ♥
はい……はい……お休みということで……よろしく、おねがいします……」
学校に休学の連絡を入れてしまえば、あとは誰に邪魔をされることもない。
蟲に胎内を犯され抜いてから、三日が過ぎた。
凛の体はそれを受け入れ、甘い快楽を次から次に送ってきてくれる。
「どうしよぉっ……なんとか……なんとかしないとぉっ……
んんんくぅぅぅっ♥」
父の蔵書に記述はあった。間桐の蟲は胎内に共生させることで、擬似的な魔術回路を生み出す。凛が初日に見せられた幻覚も、強烈な依存性を持つ破滅的な快楽も、すべて蟲の仕業だろうと思われた。
ならば、と凛は思う。桜を倒せばいい。この蟲を取り除かせないことには、凛に明日はない。
凛が持っている宝石のすべてを駆使してでも。
「んんんぁぁぁぁっ……♥」
定まらない指先で、いっとう高価な宝石の数々をわしづかみにし、スカートのポケットに仕舞い込む。
這うような動きで、凛は街中へ飛び出した。
***
間桐の家へ行くのには、公園を通っていくのが近い。
小雨が降りしきる公園には、誰の姿もなかった。
「ねえさん」
特別大きな声というわけでもないのに、その声は凛を芯から凍りつかせるほど強く響いた。
「あそびましょう?」
「……出たわね」
砂地を地味な紫暗の靴でひたひたと進みながら、桜が言う。
蟲が葉ずれのようにさざなみ立ち、桜の周囲を暗く染めあげた。
その足元に宝石を投げつける。
破裂し、煙幕をあげるだけの猫だまし。しかし、それでも桜はすこしたじろいだ。
(やっぱり。桜は、蟲以外のことなんて、何も知らないんだわ)
この蟲の群れさえ踏み越えられれば、相手は桜一人だ。桜の髪をつかみ、張り手をして――とにかく、喧嘩にでも持ち込めれば、まだ十分に勝機はあるのだ。
桜まで、ほんの二歩の距離だった。
突然、頭のなかで、ぱん、と音が鳴った。
(鉄砲……? ちがう、これは……)
天地がひっくり返り、凛は無様に転ばされる。黒い雨雲が、太陽の光をほんのりと透かしながら微細な雨粒を撒き散らしている。真上から降ってくる雨の針。
「いったでしょ? あたまのなかを、ちょくせつたべるって」
桜の声が遠くで聞こえる。そちらを向きたいと思うのに、降雨から目が離せない。泥が凛の頭を冷やし、スカートを履いたおしりを冷たくしていく。
「ねえさんはね、あやつりにんぎょうとおんなじなの。おもいどおりにうごかされるだけ。ただの、にく」
桜が、心底つまらなさそうに呟く。
水が滞留する沢のように、蟲がさわさわと鳴き声をあげた。その無脊椎特有のぬめりと冷感が、凛の手足をからめとっていく。
桜の二本の足が、凛の体の、すぐ真横まで歩いてきて、止まった。
「ねえさんにあげた蟲(こ)は、返してもらうね」
凛の太もものはざ間から、巨大な蟲がうぞうぞとうごめき、頭角を出した。
「ひっ……ああぁぁぁっ♥ あ、あ、あ、あっ……♥」
あれほど望んでいた蟲の排出が今まさに叶っているというのに、凛は何も考えられない。虫が媚肉をこすりあげる感覚に、丸みの乏しいお尻がぴくぴくとしなり、ひざががくがくと笑ってしまう。
蟲がまっすぐ桜のもとへと進んでいき、その足にぴとりと吸い付く。
「どうだった? ……そう。そんなによかったの。ねえさんのまりょく。
とってもおいしそう」
桜が抑揚のない声にほんの少しだけ喜悦を混ぜて、そっとスカートを持ち上げる。その奥に、下着は履かれていなかった。蟲が、鳥の皮のような窄まりに、するすると音もなく這い上がっていく。
桜の足の付け根に、その蟲はずぷりと頭をめりこませた。
「……はぁっ……ねえさん……ねえさんのまりょく……」
桜がうわごとをもらし、腰からずるずると崩れていく。寝転がされ、身動きが取れない凛の視界いっぱいに、その奥が広がっていく。
蟲が大きな体を狂ったように蠕動させて、桜の胎内に激しい責めを与えていた。皮のあまりが限界まで引っ張られ、うす桃色の内粘膜が、どろどろのゼラチンまみれになっているのまで、はっきり見える。
「これ……すごぉい……♥」
桜はへたり込んだまま、蟲が暴れるのに身を任せた。小さな孔が楕円に膨らむほど拡張されながら、大きな黒い虫に、ずぷずぷと出入りを繰り返されている。
じゅ、じゅぷ、ぷちゅっ、くちゅっ、ちゅ、じゅ、ぷじゅっ、
「はん、あん、あぁ、すごい、いい、あぁっ……」
刻むように早く早くなる動きに合わせ、桜は短く嬌声を跳ねさせる。
凛はそんな桜から、目を離すことができない。
蟲は激しく、狂ったようにのた打ち回り、桜の柔肉をこれでもかというほど巻き込んで外に頭を出したかと思えば、奥底を食い破るのではないかというほど中まで、粘液をしぶかせながら潜っていく。
あんなに強く、早いスピードでおなかの中を揺さぶられたら、と、凛は想像してしまう。
きっとそれは、とても気持ちがいいに違いない。
「……はぁっ♥ あん♥ んんっ♥ ねえさん、も、ほしい?」
「は、はあっ!? だれがっ……!」
嘘だった。食い入るように見つめていた自分に気づかされ、凛は慄然となる。
三日三晩、ああして犯され抜いたのだ。今更あの快楽から目を離すことなどできはしない。
桜は見せ付けるようにスカートを持ち上げたまま、小ばかにしたように凛を見下げる。
「でも、いまはだめ。ちゃんとおねがいしないとあげないよ」
(お願いをするですって?)
凛は痛みの隙間で、ぐわりと膨れ上がる怒りを自覚する。
「そんなこと、誰がするもんですか!」
地に堕ちるような真似など、絶対にできない。ぎりりと歯をかみ締めながら、桜をにらみつけてやった。
「そのほうがらくなのに」
桜はお風呂上りのように茹だった頬をだらしなくゆるませながら、凛に嘲笑を浴びせかける。
蟲は絶えず桜の中を犯している。桜の内奥も、たぱり、とみだらな汁が桜の中から吹き零れてくるほど充血していた。
くぷ、くぷ、と、浅いところをかき回す音に、凛は頭をかきむしりたくなった。それがどんなに気持ちいいのか、もう体は知ってしまっているのだ。
「きょうはね、ねえさんにもういっぴきプレゼントしてあげる。
うれしいでしょ?」
桜が取り出したのは、脳に寄生させるタイプの、小ぶりの蟲だった。耳孔を通り抜けられるほどの、細長い黒い虫。
「な、なによ……!」
「この蟲(こ)はね、ねえさんを、もっともっときもちいいからだにしてくれるよ」
「いや、っあぁ、ああ、あああああああ!」
蟲がぞわぞわと耳のうぶ毛を逆なでにしながら、ガサゴソと恐ろしい音を立てて凛の内耳を通り抜けていく。
「あああ、あつい、熱いよぉ……!」
胸のさきっぽが、急に熱く熟れだした。こんもりと乳首が持ち上がり、イチゴのように大きく肥大してしまう。
「ああ、あ、いやぁ、あぁっ……♥」
凛の人形のようにすべらかな胸に、膨れ上がった不恰好な乳首が形を現す。それは凛の服をこんもりと盛り上げて、先端からじくじくとしずくをにじませはじめた。
「ふく、服ぅ、こすれてっ、あぁっ……♥」
薄く盛られたプリンほどもない小さな胸板を懸命に震わせて、さきっぽを布にこすり付ける凛。
こりこりになったそこには、ほんのかすかな繊維の刺激も強すぎるぐらいの起爆剤だった。
「ねえさんはね、おっぱいがでるようになったんだよ。
これをぜえんぶ搾り出したら、あの蟲(こ)は枯れてしんじゃうよ。
でもね。ずっと枯らさないでいると、あの蟲はちょっとずつのうみそをたべていくから。ねえさんはどんどんむしのあやつりにんぎょうになっていくんだよ?
ああ……それとね。ねえさんは、もうじぶんでじぶんのからだにさわることはできないよ。
しぼってほしければ、だれかにおねがいしてごらん。
たとえば、わたし……とか」
「あぁっ♥ ふ、ふざけないでよ! ……うくぅん♥」
凛が反射的に答えると。
「……そう。ふふっ。じゃあ。がんばってね」
桜が立ち去ると、ようやく凛はその場から動けるようになった。
***
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