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「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
自分の荒い息がたまらなく恥ずかしい。静まり返った室内に、その音だけが響き渡るようだった。
新たに与えられた蟲は凛の身体を勝手に作り変えていくようだった。あるかないかの大きさだった小さな胸に、今ではふっくらと肉付きができている。それがブラウスにくっきりと透けてしまって、幼い子どもとは思えないような、ありうべからざる空気を醸し出している。
(こんなかっこじゃっ……外にも行けない……)
飢えたやせ犬もかくやの激しい渇望を抱えさせられていながら、凛は自分の身体に自分で触れないという制約までつけられてしまった。凛には性の知識などほとんどなかったが、これが恥ずべきことなのだということは、本能で分かる。
くちゅり……と、ミルクが染み出すブラウスの胸ポケットが音を立てる。
(なんとか……なんとかしないとっ……)
このままでは理性が焼ききれて、通りすがりの誰でもいいから慰めてほしいと懇願してしまうまで、そう時間はかからないに違いない。
それなら、今できる最善は。
「……綺礼、少し時間をください」
「どうした、凛。かしこまって。らしくもない」
(そうよ。こんなときでなきゃ、誰があんたなんかに)
凛は服の肘を握り締める。
「……お願いが、あるの」
「人にものをお願いするするときに、そのポーズは頂けないな」
「……っ、これはっ……!」
腕を組んでいるのは、胸がかすかに張り出しつつあるからだった。それはごくゆるやかなカーブだったが、子どもの体にその隆起はアンバランスで、目立ちすぎた。さらに、成熟した大人の女のようにくっきりと乳首が浮き上がっていたし、そのうえミルクのようなものがじんわりとにじみでてきているなどと、知られるぐらいなら舌を噛んで死んだほうがマシなぐらいだ。
そう思ってはいても、他に頼れる人などいない。
「……あの、あのね、綺礼、私のっ……」
(……無理無理むりむりぃっ! そんなこと言えない!)
蟲によってぽってりと厚ぼったくなった乳首から、あたたかいものがたらたらとこぼれてきているのを感じる。そこがかゆいような苦しいような、不思議な感覚を絶えず凛から引っ張り出してきているのだった。
(うぅ、ゴシゴシしたい……けどっ……こんなやつに頼みたくなんかっ……)
「……どうした? 熱でもあるのか?」
綺礼が異変を察知したのか、手のひらをおでこにあてがってくる。
「……っ、そうなの、熱っぽいのっ!
胸もなんだか苦しいし……」
凛はそろそろと腕をはずしていく。
(あぁ……見られちゃう……さきっぽからへんなのがにじんでるとこ……
……こんな奴なんかに……っ)
「……凛、これは……」
「……綺礼……」
冗談のような大きさの乳首がぽこんとせりだし、凛の服にくっきり張り付いている。
恥ずかしさで耳たぶまで沸騰させながら、凛は必死に覚悟を決める。
「身体をいじくられているのか」
「そうなの。おねがい、さわってほしいの……」
そうこうするうちに、また胸がひとまわり大きくなったような気がする。中にたっぷりミルクが詰まっていて、溜め切れなかった分がどんどん先端から出てきてしまっているようだった。
「いや、しかし、なぜこんな……」
綺礼が凛の目の高さまでしゃがみこみ、無遠慮に凛の胸をつかむ。ぷしゅっ、と、白濁した液体がしぶきをあげた。とたん、脳天まで貫くような電撃が凛の身体を震わせる。
「ひゃぅん……っ?」
「性魔術の類か。面妖な。このような幼子に……」
「きれっ、おねが、お願い、たすけて、さわりたいけどさわれないの、自分じゃだめなの、助けて、助けてよ、お願いだから……」
かくかくと膝を笑わせ、凛は綺礼の手にすがりつく。
その時、綺礼が唇の端でかすかに笑ったことを、凛は見逃さなかった。
「……人にものを頼むときは、相応の頼み方があるのではないかな」
「うぅっ……! 私、やっぱりあんたのことなんて大嫌い……!」
「そんな口を利ける立場か、よく考えることだ」
よりにもよって、こんな奴なんかに。
屈辱で唇を食い破りそうになりながら、凛は服の裾をまくりあげた。
「言峰さん、おねがいします、私のみるく、絞って、ください……ぅぅっ……!」
即座に舌を噛んで死にたい衝動を戦う凛。
そんな凛をニヤニヤと嘲るように見下ろしながら、綺礼の手が凛の胸をぎゅうっと絞る。あるかないかの起伏だから、全体を手のひらで押しつぶした。
「あぁーっ? あぁー? ぁー?」
たちまち釣り目を崩して感じる凛。
凛の胸は、小柄な体に不釣合いなほどになっていた。異常に発達した胸から母乳を搾り出すようにしてきつく握りこむと、ぷしっ、と勢いよくミルクが弾けた。
凛の乳首は、大人の大きな手でやすやすとつまめるほどに肥大していた。
「あ、あ、あああ……」
凛は頭がまっしろになって、ぺたんと床に座り込んだ。
「手で絞ったのでは家財が汚れてしまうな。
来い。口で吸い出してやろう」
「う、うんっ、おねがい、ちゅうちゅうして、ねえ、はやくぅっ……」
子どもがだだをこねるのとなんら変わりない調子で言っているはずなのに、それを見下す綺礼の目の色が、少しずつ変わってきているのを、聡い凛は感じ取っていた。
綺礼の腕がその身体を軽々とかつぎあげ、ベッドの上に放り投げる。
意地悪い兄弟子に向けて、凛は恥も外聞もなく懇願する。
「綺礼、綺礼、おねがい……」
「待ちなさい」
綺礼が上着を脱いでコートにかけるのを、凛のぼやけた瞳が追う。待ちきれないと書いてある、気丈で生意気な妹弟子の痴れた顔に、綺礼は笑いをかみ殺しきれないようだった。
(むっかつく! 絶対絶対許さないんだから!)
ひそかに敵認定をしながらも、凛は子猫のようにおとなしく、しおらしくしてみせる。
「性質の悪い術に引っかかったな」
「う、うるさい、小言ならあとで聞きます!」
「なんだ、先ほどはあんなに反省して見えたのに、フリだけだったか。手伝ってやる気が失せるな。凛」
「う、ううう、ごめんなさい、謝るからぁっ……はやくぅっ……」
「先ほどのをもう一度言えたら、考えよう」
「さっきのって……」
「凛のみるくを絞ってください……だったか」
「ううううう!」
(やっぱりこいつ絶対コロス!)
凛は殺意にどうにか蓋をして、優雅たれ優雅たれと家訓を繰り返し念じながら、媚び媚びの上目遣い(これをするとお父様は何でも買ってくださった)で、とっておきの猫なで声を出す。
「凛のみるく、ぺろぺろしてください……」
狙いどおりに行ったのかどうか、綺礼は表情が読めない顔で凛を見据えて、ひとつ大きく頷いた。
「……愉悦」
「な、なによ、言ったじゃないの! いい加減にしなさいよね!」
「凛?」
綺礼が脅すように言うので、
「お、おにいさま、おねがいです! 凛のお、お、お、……っぱいミルク、し、し、搾り出してください!」
やけっぱちで叫ぶ凛。
そんな凛をせせら笑うように唇を曲げる綺礼。この男がこんなに笑うのも、もしかしたら初めてかもしれない。
焦らされて、凛の熱がたかぶっていく。はだけた幼い胸の先からぽたりとミルクの雫が垂れて、痺れるような快楽を凛に容赦なくたたき付ける。
「はぁっ……はぁっ……綺礼ぇ……」
たまらなくなって、凛はみずからの胸を綺礼の腕にこすりつけた。きゅうっと甘く切ない快感が胸いっぱいに広がって、凛は瞳にいっぱい涙を溜める。
「やぁ……綺礼のおくちがいいよぉ……すっごくやわらかそうだし……ちゅうちゅうしてくれるって言ったじゃないのぉ……」
ぐすぐす泣き出す寸前の凛に、綺礼はぽんと頭を叩いてきたかと思えば、そっと凛に耳打ちをした。
「泣くな……なに、可愛かったのでな。少し苛めすぎたか。許せ」
(かわいい……?)
誰が? ……この冷血神父が? 誰を? ……私を?
(かわいい、ですって?)
綺礼が蛇のようにこちらを見ている。その視線に、なぜだか首の毛が逆立つような感じがした。罠にかかった獲物の気分といえば、しっくりくるかもしれない。
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