虫はいっせいに群がってきた。
凛のおなか、わき、ひざ、ほっぺ。おしりや、てのひらのぷにぷにしたところ。
凛のやわらかな肉すべて。
そこに向かって、虫たちは、一斉に牙をつきたてた。
「いぎいぃぃぃっ! いた、痛い、痛い痛いいたいいたいいたいぃぃぃっ!」
脳が焼き切れるかと思うほどの、すさまじい痛みが一度に襲ってきた。
目の前が真っ赤に燃える。肉を食い破られる痛みが、大砲のようにこめかみを打つ。痛みを痛みと認識しきれず、凛の唇から笑みがこぼれる。
「あはぁっ、いた、痛い、いたたたた、痛い痛い痛い痛い、あはっ、あははは!」
凛の耳の隙間へ、虫たちがぞろぞろと恐ろしい音を立ててもぐりこんでいく。
耳の中を、虫が暴れまわっていく。
「い、ひゃ、ああん! いぃぃひゃああぁぁ!!」
耳朶の内部に直接響く音は魔物の吼え声にも似ていて、凛はそのまま気を失いかけた。
すさまじい痛みが耳の奥をかきまわした。世界から唐突に音が消えた。ありうべからざる、花のような香りがした。内蔵が裏返るような心地がした。何もしていないのに、右足が激しく痙攣して、動かなくなった。体を操る糸という糸が切れてしまったように、意識はあるのにどこも動かせなくなった。鉛のように重かった。
吹き荒れる苦痛。何もできない恐怖。ふいに口のなかが何かでいっぱいになった。それは子どもの頃に食べたラムネの味にも、海の水の味にも似ていた。飛行機雲をちぎって食べても、そんな味がするのかもしれない。それは針を刺すような痛みも伴って続いていった。
いじられている。
ふいにそのことだけが理解できた。
頭の中身を、いじられている。
ぞるるっ、と、視界に何かが割って入った。万華鏡のようなきらめきが、周囲の輪郭をあいまいにしていく。虹色がはじけ、プリズムが踊った。
そしてまた、世界は唐突に覚醒した。
はじめに理解できたのは、マグマのような熱だった。
おなかの底に堆積する、蛇のようなうねり。
こわい。
凛はただ殺されるのではない。桜の、温度のないまなざしが、それを物語っていた。
思いつく限り、いちばんひどい方法で殺されるのだ。
こわい。
蟲も、桜も、こわかった。
人ではない、なにかがこちらを見ているようで。分からないことが、より恐怖を駆り立てた。ぽっかり開いたくらい穴のように、桜の瞳には色がない。
凛はもう、なすすべもなく泣いていた。
「うっ……えぐっ……うあぁぁ……っ!」
はしかにかかったときのように、頬が熱を持っていた。あのときは、そう、曲線といい、色といい、りんごにそっくりだね、といってお父様がなでてくださった。
りんごのようにすべらかで、まるくて、みずみずしい。
凛はなんてかわいいんだろうね。
あのときの、誇らしくてくすぐったい気持ちを、いまでも鮮明におぼえている。
「やめて……おねがい……やめてよぉ……」
ひとの言葉など、蟲には届くわけもない。蟲は凛を席巻し、上等な衣服を次々に引き裂いていく。
虫食い状に衣服が破れ、凛の下腹部が露出した。それは、まだ女とも呼べぬような、たいらかでつるりとした表面をしていた。ごく薄い皮に包まれているだけの淫核が、ざくろのように真っ赤な実をのぞかせている。
「やだあぁぁ……」
ぶざまな泣き顔の凛をあざ笑うかのように。
桜は無慈悲に指示を下す。
虫の一匹が、なんの準備も与えられない幼い秘洞に、先端を宛がった。
そのまま、穿孔するように全身をねじる。
凛の身体の最奥へ、ずぷずぷと頭を埋めていく。
「ひっ、いやぁっ、いやあぁぁぁぁっ!」
凛の身体の奥底で、みちり、と何かが弾ける感触がした。身の毛もよだつすさまじい痛みが凛の神経を焼く。圧倒的な質量に押しつぶされそうになり、凛はぱくぱくと口を動かした。
ぼたり、ぼたり、と、瞳から涙が滑り落ちていく。点のように収縮した瞳孔には、ありありと絶望の黒い影。
すすり泣きと絶叫が、震える声でつむがれる。
「いやあぁっ、やだ、やだあぁっ、痛い、痛い、痛いよぉ、痛いいぃぃっ!」
細い四肢を無益に振り回し、ずるずると地べたをはいずって、凛の身体が少しずつ頭の方向へ逃げていく。そうすることで少しでも虫から遠ざかりたいのだとでもいうように。
濡れたような感触がした。焼け付くような痛みと、燃えるような鮮紅色で知る。それは、凛の、破瓜血だった。
透明な赤いしずくが太ももをすべり、地面をぱたりぱたりと汚していく。
ずっ……ずるっ……ぬぷうぅっ……
ぬめる血だけを潤滑液に、虫が凛の秘裂をさかのぼっていく。
繊細な内面は、それだけで、かな釘でひっかかれたような痛みを覚えた。
「ひぃっ! あぁっ、ああぁぁぁっ!」
ひゅーっ、ひゅーっ、と、のど笛が鳴る。かさついた唇からよだれがこぼれ、痛みが脳ごと破壊していく。
あっという間もないほどたやすく最奥に達した虫は、そのまま前後に蠕動を始めた。
血と粘液まじりの内裂が、ぬぷりぬぷりと犯されていく。
凛の身体が小刻みな不随意運動を繰り返す。快感の小さな波に震わされていた先ほどとは違う。灼熱の痛撃がもたらす、避けようのない反射だった。
「ひ・ぎぃっ……うぶっ……ぅぉあっ……」
ぐじゅ・ぐじゅ、ずにゅっ……
やわらかく吸い付く襞のことごとくが、激しすぎる摩擦のせいで剥離していくかと思われた。それほどのひどい痛みが続いた。
とくん……
身体のどこかで、パルスが生まれる。
どくん……
脈動が、凛の知覚を揺るがしていく。
「……ぁ……?」
ふいに、凛の脳を強烈な閃光が焼いた。平手の殴打のように、ぱん、と視界にブレが入る。
「あ……あ……あぁぁぁっ?」
膨大な悦楽が、決壊した洪水のようになだれ込んできた。
(な……なにこれ、なにこれ、なにこれぇっ……!)
ずんっ、と、身体の奥深くに楔が打たれる。とたん、身体の奥からどろぉっ……、と、何かがあふれ出してきた。おなかの奥深くで渦を巻いていたマグマが、袋の一端を破られて漏れ出してきたかのようだった。
熱くて、くるしくて、たまらなく良い。
ソコをつつかれると、もっともっともっともっと欲しくてたまらなくなる。
(これ……『きもちイイ』……っ)
凛はひとたまりもなく、絶頂した。真白い残響が凛の脳内を埋め尽くし、たがが外れたおもちゃのように、手足が、胴体が、めちゃくちゃに痙攣する。
―-びくん、びくっ、びく、びくびくびくん!
「ああぁぁぁぁっ? ああーっ? あーっ?」
全身の骨と肉が溶けてしまったようだった。甘美な酸でどろどろになり、形も分からなくなるほどかきまぜられて、凛は長い長い絶頂を終えた。
生意気そうにとがった瞳をくにゃりと淫蕩に歪めて、凛は甘く重たい息を吐いた。
「はぁん……」
間を置かず、虫がさらなる責めを与えてくる。
ぐぷり、と、水のような濡襞がくぐもった音を立てる。血と淫水と肉片がまじった淫襞の中を、虫が狂ったように暴れまわる。凛の中はそれだけで歓喜するようにわなないた。
ちゅっ、ちゅくっ、ぬちゅっ、ちゅぷっ……
浅く早い律動が、達したばかりの凛の性感を再び煽った。重たく熟れた果実のように、虫が食い荒らすごと、甘い蜜がじゅわっと滴る。
ぐしゅぐしゅになった秘裂が、虫との交歓に打ち震え、きゅうぅんっ……と切なく収縮する。
「んぅぅぅっ……ううぅぅっ……あふうぅっ……!」
精を根こそぎ搾り取るかのように、凛の蜜壷がぎちりとしなり、虫の全身にあますところなく絡み付いていく。
ぬちゅぬちゅの繊細なひだに虫のまるっこい頭がじゅぷじゅぷとこすりつけられ、蹂躙される。それが、たまらなく気持ちいい。
「ああっ、はぁっ、あぁぁっ……!」
ぐぽっ、ずちゅっ、ぬぽぉっ……
浅く小刻みに蠢いていた虫ののたくりが、重く激しい動きにいつしか代わり、凛の胎内を暴虐なまでの圧迫感で陵辱していく。
不思議と、もう痛いとは思わなかった。
目の前が七色に偏光し、かと思えば、黒いパネルがばらばらと崩れ落ちるように色が欠けていく。
「んんんああぁぁぁっ、きもちいいっ? きもちいいよぉっ?
あたまのなかまっしろにっ? まっしろになっちゃうぅぅっ?」
小さいけれども瑞々しい乳房をぷるぷると震わせつつ、凛はよがり声をあげる。
肩や腰がガクガクと痙攣し、食道に棒でもつっこまれたように上体がおおきくのけぞってしまう。
二度目の絶頂が激しく瞬き、凛の手足から力が抜ける。
「……ひぃ……? ぅうぅぅ……?」
桜はそんな姉を無表情に見下ろしていたが。
やがてくすり……と笑みをもらすと、冷たく淡々と言い放つ。
「きょうのところは、このくらいにしてあげる」
「あっ……、ま、待ちなさいよぉっ……!」
「しんぱいしなくても、おたのしみはこれからだよ。
きたいしてて。ねえさん」
桜が去っていくのを、凛は這いつくばって見ているしかなかった。
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