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    アニメ・ラノベの同人小説倉庫

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    Information

    □ fate/zero □

    蟲蔵陵辱 -桜と雁夜のたのしい虫姦 入門編-(完結)

    ・注意書き

    下記の要素を含みます。
    ・虫姦
    ・ロリ 陵辱
    ・腐向け的な陵辱
    ・バッドエンド

    大丈夫な方だけどうぞ。


    2012.06.27追記 このお話は7月までの公開とします。
    2012.08.01追記 第一夜のみ残して取り下げました。再UPしたらお知らせします。
    2013.09.24追記 再UPしました。飽きてしまったので!








     間桐桜が新しい父に投げた疑念は、彼を大いに当惑させたらしかった。
     その時の父・鶴野の、名状しがたき相貌。

    「ムシグラに入れられるとね。はじめはとっても痛くてつらいのに。
    お股のところを食べられちゃうと、とっても気持ちがよくなるの。
    どうしてなのかなあ?」

    「……桜ちゃん」

    「おとうさ――トオサカさんが、おっしゃってたの。
     マトウの魔術はわたしを助けるためにぜったいひつよう、なんだって。
     これが、『ぜったいひつよう』なマトウの魔術なの?」

    「……そうだよ。これが間桐の魔術だ。桜がいい子にしていたら、蟲も桜をかわいがるんだ」

    「そっか。ムシさんは、わたしがいい子だったら、痛くしないでくれるんだね」

    「ああ、そうだ……」


     桜は信じるしかなかった。

     桜はある日突然、養子に出された。
     連れてこられた初日に、桜は秘伝の虫がいっぱいつまった蟲蔵に放り込まれた。
     新しいおうち、つまり間桐の魔術に向くよう、桜の身体を調練するということだった。

     そして刻印虫に犯された。

     桜は必死で暗示をかけた。
     身体のあらゆる悲鳴を黙殺し、萎縮し、粛々と隷属すれば、刻印虫の寵愛が与えられるものだと。生存に最低限の精神を温存するためには、その欺瞞にすがる以外、他にどうしようもなかった。

     はじめの三日のことは、記憶から消失している。苦痛、恐怖、絶望、絶叫、また絶叫。救難が無益だと理解するのに時間はかからなかった。長きにわたる陵辱の凄絶さは、痛痒を感じるはずの神経がことごとく焼き切れ、死滅したのではないかと思うほどだった。
     ついには妙な感覚を得た。『わたし』の身体を斜め上からぼんやりと俯瞰している、もう一人の『わたし』。
     身体の痛みと、こころの苦しみが乖離した。
     諦観で心を守るための、それが手痛い代償だった。今や桜は生ける人形同然だった。
     遠坂桜が死に、代わりに間桐桜が生まれた、瞬間だった。


     ――苦艱が遠のいた三日目の夜、世界は反転する。


    「んっ……はぁっ……」
     
     身体が突如として、溶けるように、肉の歓びを覚えた。

     身体に異変が起きたことは、幼い桜もおぼろげながら察知した。苦いちごの実をつぶしたような、あまく切ない快美感。
     異変が全身に広がるのにとまどっていると、徐々に快感の実は甘く、重たく、熱を孕んで熟れていき、ついには自重でぐちゃりと潰れて、無上の甘露の芳香を漂わせはじめた。

     刻印虫が粘液を伴い、身体を這いずる。
     その感覚が、やさしい手で琥珀の蜂蜜でも塗り込められているかのようだった。桜はとうとう、自分の気が狂ってしまったのだと感じた。もう、それでもよかった。阿鼻叫喚の地獄絵図から救ってくれるなら、夢でも見ていたほうが、マシだった。

    「あっ……い、ひぃ……んんっ……」

     刻印虫が足の付け根を這い回る。太ももにしたたる桜の体液が目当てのようだ。沢山の虫を肌に張り付け、桜は悩ましげに眉を寄せる。

    「うぅ……ゃぁ……あっ、くぅん……」

     初めてそこを食い破られたとき、桜は自分が内臓を食い荒らされて死ぬ運命なのだと思った。そして半分はそのとおりになった。どうせなら、早く殺してくれればいいのにと、諦観するこころが嘆きを叫ぶ。

    「やっ、なに、なんなの、これ……やっ、やぁ……うぅぅ……!」

     虫は、執拗に、ほんの20センチにも満たない、桜の細長い内臓器官に執着した。それがなんの管なのか、桜にはわからない。

    「へ、へんに、なるよぅ……」

     羽毛でくすぐられるような、あるいは花の蜜を舐めとるような。虫がぐじゅぐじゅとそこを出入りするたび、未曾有の刺激が桜を絡めとっていく。

    「……はぅぅ、うぅぅ……あっ、動いちゃ、だめぇ……きもちいい、よぅ……」

     お菓子を貪るのよりもっと甘美な、どろどろの性感のスープに浸されて、意識が浮沈を繰り返す。

    「ん、うぅぅ……はぁ、あっ、あぁぁ……」

     ずっ……ぐちゅ……ずちゅっ……

     刻印虫が桜の身体を出入りするたび、まるで金属の薄膜が燃えるように、鮮やかな火花が身体を嘗め尽くしていく。

    「……そんなっ……そんなに……いっぱい……入らないよぅ……うぅ……」

     大量の刻印虫が、のたのたと身体を振りたくりながら陰部の花弁を占拠していく。餌である桜に侵食しようとする虫、虫、虫の群れ。

     何本もの細長い刻印虫に犯されぬいて、桜の身体が限界を迎えた。

    「はっ……あっ……なんか、きちゃう……あっ、あっ、あっ、ああぁぁぁっ!」

     桜の絶頂が世界を赤く塗りこめ、ぶつん、と意識が断絶した。


     以来、虫の刻印は、快楽と苦痛を相半ばするようになる。


     手足に繋がれた鎖をじゃらりとも鳴らさず、泣きもせず。
     桜は蟲蔵の中央に立たされたまま、子牛のように従順だった。

     桜が本来持っている、抜けるように真っ白い肌は、どこか浮世絵を思わせる。
     それが今では、緋色の紗を重ねたように赤くなっていた。

     桜の、丸みを帯びた、こどもらしい稜線のかかとが一匹の蟲を踏みつけにした。体重を嫌い、ぬるり、と虫が足の間を逃げて行く。足の甲やふくらはぎをらせん状に伝い来て、女ともいえないような胸の上を、虫の大群が占拠していく。

     そのすべてを、桜は曇った瞳で見つめている。

     ……ぬちゅっ……ちゅぬぐっ……ちゅぅっ……

     虫が気儘に媚餌たる桜の陰部を貪っている間中、桜の意識はおのれの身体をぼんやりと観察していた。
     虫は何よりも桜の体液によく反応し、また、それを搾取するための身体のしごき方というものをよく心得ていた。

    「あっ……うぅぅ……ぐぅぅ……」

     刻印虫は桜の骨肉を食み、まず涙を流させる。虫食いに合い、傷ついた身体は虫の発する燐光が隙間を塞ぎ、そのたびに桜は五感以外の何かで、身体に充溢する力を知覚した。それが魔力だと知ったのは、もっと後になってからだった。

     刻印虫が涙を余さず啜った後は、虫は舌の上をも蹂躙した。桜は忍んで涙を堪えた。おとなしくしゃぶっていれば、その責め苦もすぐに去る。

    「ひっ、いぃぃ、うぅぅ、あぁぁぁ……!」

     やがて刻印虫は桜の恥骨を匍匐し、桜の糖蜜を吸おうと頚を延べる。

    「やぁ、あぁぁ、あぁぁうぅぅ、ううぐぅぅぅ! うぅ……」

     野生の幼獣が発する断末魔のように、媚を孕んだ悲鳴が漏れる。

     硝子のようにただ透き通っているだけの、何も見えない役立たずの眼球が、映画のワンシーンのようにただ風景を記録していくのへ、一抹の揺れが起こる。

     視界が揺籃されていく。

    「ひ、あぁぁぁん! あっ、あうぅ、ううぅぅ! ふっ、うぐぅ、うぅぅ!」

     虫が、桜の神経の粒を侵し抜いた。桜の頭のてっぺんからつまさきまで、ずぐん、と、串刺しにされるような電気が走る。

     ひとたまりもなく感じ、じわり、と染み出してくる桜の身体。その粘液を、虫が狂喜乱舞して摂取し尽くした。更なる給餌を求めて騒然となる。

    「ひっ、んうぅ、あぁぁ……あつく……なっちゃうぅ……」

     虫の大群の蠢動が影のようにうねり、桜の、まだ膨らみきらない股間の蕾を無理やり開花させていく。

     虫が花弁を食い荒らし、たっぷりと生の蜜を嚥下したあと、滑りを帯びた体躯を収縮させて、桜の入り口をこじあけにかかった。

     初日から不釣合いな異物をねじ込まれ、強引にほぐされてしまった幼げな穴に、虫がのたくりながら侵入を試みる。

    「あうぅ……まだ……まだダメだよぉ……うぅぅ……」

     強引に開発された未成熟な花弁が片栗粉をまぶしたようになり、とろとろと仕込まれた煮汁を滴らせていく。

    「ん、はぁ、ああぁ……あぁ、はいっ、てく……うぅ……」

     ぬっ……ぐっ……ぐぷぅ……

     湿潤した肉厚のものが胎内に埋没していく。どんな抵抗も無効にするような、暴力的な快楽が溶岩のように噴きあがる。おなかの底にどぷりと堆積し、身体の肉や骨をぐねぐねに液状化させていく。

    「あぅ……あぁ、あんん……っ! あ、はぁぁ、やめて、やめてよお、あぁ、だめだよぉ……!」

     哀訴はむなしく空に消えた。足腰がなくなるごとき遊離感が、次第次第に桜を殺す。 ぶちゅり、と虫が桜の奥深くまで潜りこむと、狂ったように胎動しはじめた。

    「はぁん! あぁ、ああぁぁん! やめてぇ、ひろげないでぇ……!」

     ずちゅ、ずちゅ、ずちゅっ……

     大げさな動作で行き来する虫。隙間にさらにもぐろうとする虫。入り口の柔肉をひたすら食む虫。充血しためしべを嬲る虫。

    「もぅ……いやだよぉ……はぁう……うぅぅ……」

     虫がおなかを這いずり回る。いつのまにか、桜の全身には汗が、霧吹きをかけたように散っていた。こめかみから首筋へ、鎖骨から肋骨のでっぱりへ、珠が伝い落ちていく。

    「ひゃあん! きもちぃ、気持ちいいよおぅ……」

     次第に虫自身が粘液を帯び、桜の身体にくるくると何層もの乾いた痕を残していった。それが、たまらなくかゆい。

    「……ひゃ、あ、ううぅ……! ちぎれちゃ、からだ、ちぎれちゃうよぅ……!」

     くぷっ……ぬぢゅっ……ぢゅうぅっ……

     虫が桜の蜜壷に苛烈な扱きを繰り返す。陰部をまさぐる機会からあぶれた虫は、不可視の力をうすく立ちのぼらせる桜に酔い、縦横無尽に皮膚を食い破っていった。

     身体が赤々と燃え、桜は灰になった。

    「ひっ……いっ……あっ……! あっ、はっ、あぁぁぁぁっ!」

     ぐにゅぐにゅの胎内から虫がずるりと抜け落ちる。ひとたまりもなく、桜の意識は快感で消し飛んでしまう。びくびくと睫毛を震わせて涎をたらす桜を、いつ終わるともなく、虫が蹂躙していった。



    第三夜

     目覚めたときにも、まだ蟲蔵に放り込まれたままだった。
     かれこれ半日は弄ばれている。

     ……じゅっ……じゅくっ……ぐぢゅっ……

     鎖につながれた手首が痛い。

     うっそりと見下ろしたからだは熱が抜け落ち、蒼みを帯びて月光を跳ね返していた。とっかかりのない胸から下、桜の敏感な箇所を虫がくすぐっている。
     股の間には、虫が何匹も喰らいついていた。うぞうぞと蠢動する動きに、腰の奥がかすかにうずく。
     虫の動きは、桜の身体から無理やりにでも快楽を引き出すためのものだった。
     蠢く虫の姿に、はじめは戦慄するだけだったのに、今では見るだけでその筆舌に尽くしがたい美味をかすかに想起させ、もの欲しくなりさえする。

     燻した紫水晶のような瞳に、あえかな情感の灯がともる。
     その年頃の乙女には決してありえない類の悦楽に頬を染めたその顔は、ぞっとするほど、美しかった。

    「……ふっ、ぅ……んん、あぁ……気持ちいぃ……」

     くびれのないはずの腰が、いとも濃艶に曲線をえがき、蜜壷が自律の意思でもってわななく。
     桜の肉の圧力でくびり出された虫がぼとりと足の間に落ち、代わりに別の虫が狂乱しながら潜っていった。
     入れたての新鮮な虫が、骨盤をびりびりと啼かせてくる。

    「あぁ……いぃよぉ……もっとぉ……もっと入ってきてぇ……」

     桜がもどかしく腰を揺らしていると、縦長の光が桜の身体に落とされた。

    「……?」

     明かりを持った何者かが、蟲蔵に踏み入ってきた。そう理解するも、逆光に阻まれて、誰が入ってきたのかは、よく、見えない。

    「ああああああっ!」

     男の絶叫。侵入者は蟲の群れに飛び込み、まっすぐに桜を目指し、走った。

    「桜ちゃん――桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん!!」

    (この声……)

     聞き覚えがあった。やさしそうな人となりで、子どもでも安心して懐いてしまえて、でもどこか頼りない。

    「カリヤおじさん……?」

    「ちくしょう……許さない、臓硯、時臣、鶴野、虫ども……そして俺自身も……みんなみんな、絶対に、許さない!」

     おじの雁夜が激怒しているのを、桜はぼんやりと眺めていた。

    「ほっほ。口先だけは勇ましいのう?」

     蟲の群れが殺到し、雁夜の体に漆黒の衣服を着せる。手足を絡めとられて、やがて雁夜は蹲り、動かなくなってしまう。

     黒い団子のようになった雁夜の頭に杖を食らわせたのは、間桐臓硯だった。戸籍上は桜の祖父ということになっている、御年数百年の大妖怪。こちらは蟲にたかられることもなく、平然と立っている。

    「ならば受けてみよ。虫の洗礼、貴様ごときに耐えられると思うてか」

     臓硯が奇妙な魔術を行使し、雁夜の手足に鋼鉄の枷がはめられていく。手足を吊るされ、雁夜は棒立ちになった。

    「桜よ、よう見ておれ。これが、間桐に逆らった者の末路じゃ」

     雁夜の絹裂きの絶叫が土蔵を揺るがす。

     その生々しく鮮烈な恐怖の色に、桜は忘れていた恐怖をすら、一時的に呼び覚まされた。

     蟲が内臓を喰らう痛み。体の組成が変異する恐怖。燐光を発する未知の力への蒙昧。執拗な陵辱への絶望、そして麻痺した心をも慄かす淫虫との交歓。

     雁夜の両目から血が噴き出した。虫は身体の柔らかいところを好んで食す。次に唇、次に喉、次に――

     雁夜の悲鳴はえづきすら伴って続いた。

     そう、刻印虫が何よりも好むのは、

    「触るな、やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろ、いぎっ、ひ、ああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

     虫が雁夜の下腹部に集まっていく。ぶわり、とズボンが虫をつめこまれて膨れ上がり、うぞうぞとうねりを発する。やがて、ぶつり、とズボンがちぎれ、落ちた。

     虫が狂ったように左右に身体を捩る雁夜の、股間に殺到した。てろり、と投げ出された肉の袋とつく棒を、蟲が大口をあけて飲み込んでいく。

     虫の口にばっくりと食いつかれて、雁夜の身体がはげしく痙攣した。肉の腕のようなものを、虫の蠕動が執拗に扱きあげる。桜も何となく察知した。それが、虫の一番好きなところなのだ。男の身体の仕組みなど知らなくても、本能的に直感した。

     さらに別の一匹が、まるまると肥えたからだを、小さな耳の穴にぎゅるりと捻じ込み、遅々とした動きで侵入していった。

     ひときわ鋭い絶叫が鳴る。雷鳴のように恐ろしい、暴力的な大音声。
     それがいきなり、途切れた。

     雁夜の身体がだらりと弛緩し、目玉が裏返った。口から涎がこぼれ出る。
     失神したらしかった。

     死体のような身体に、蟲が無慈悲な損壊を与えていく。

    「雁夜よ、刻印虫を小脳に寄生させれば極上の官能も堪能できようが、おぬしにそんな手心はないものと心得よ。それが間桐の制裁じゃ」

     言い捨てて、臓硯は蟲蔵を出て行った。

     桜は、虫がたかる雁夜の体に、まなこを見開いてじっと見入っていた。知人の悲鳴は、それだけで後味の悪いものだ。ましてや桜も、雁夜が受けている苦痛はよく見知っている。
    「や……め……ろ……殺せ、殺すなら殺せ、これになんの意味がある、答えろ時臣! お前のせいで、お前のせいで桜ちゃんは……!」

     謎かけのようなうわ言を吐露しながら、雁夜の身体が痙攣を繰り返す。脳で刻印虫が猖獗している為だろう。記憶と知覚がバラバラに解体されているのだ。

     閃光のように、はじめの夜の苦悶が桜に蘇る。こころが焼き切られそうになり、桜はつい、声に出していた。

    「やめて――おじいさま」

     臓硯はもうこの場にいない。わかっていても、哀願せずにいられなかった。

    「カリヤおじさん、くるしそう。やめてあげて。わたし、がんばるから。もっといっぱい、虫をいれられてもなかないから。だから、カリヤおじさんにひどいことするの、やめてあげて」

     桜の身体の中の刻印虫は、けして愉快ではないにせよ、すでに桜にはうべなうことのできる範囲内のものだった。

     結局、桜の泣訴に答えはなかった。

     雁夜は背骨が軋むほど身体を仰け反らせ、血の泡を吹いていた。ぞくん、と背筋に戦慄が走る。甚振られた時の、胸をかきむしりたくなるような痛みの連続が、桜の中に戻ってきていた。

    "桜よ、よう見ておれ。これが、間桐に逆らった者の末路じゃ"

    (カリヤおじさんは、悪い子だったんだ。きっとそうだ)

     必死でそう思い込もうとした。

    (わたしは、いい子にしているから。だからもう、痛いことはされないはず)

     耳をふさぎたくなるような雁夜の叫喚だけが、途切れずに続いていく。

     桜は、身を縮こまらせて、耐えるしかなかった。


    ***

    第四夜


     それからの桜は、雁夜と共に蟲蔵に入れられるのが日課となった。

     初めの頃は咆哮をあげ続けていた雁夜も、一週間もすれば大人しくなった。声をあげるだけ、体力の無駄だと悟ったようだ。

     二人並んで裸にされる。
     手枷をはめられる。

     雁夜は決して桜のほうを見ない。

    「ん――ふあぁん……」

     虫が桜の身体の中で胎動する。腹の底でとぐろを巻いていた懊悩が鎌首をもたげ、桜を婬情でがんじがらめにしていく。

    「あっ……やぁ、だめだよ、いまはだめぇ……」

     桜は必死に自分を抑える。
     懐いていたおじに、変わり果てた自分の姿を晒すのは恥ずかしく、恐ろしかった。だから、雁夜がまともである間は、桜は出来る限り虫を押さえつけることにしていた。

     ちらりと雁夜を盗み見る。

     無言で諾々と虫を受容している。

     虫が雁夜の肉の棒を搾乳機のように舐犢し続けた結果、そこはぱんぱんに膨張していた。
     雁夜のその形状は、桜の身体に入り込む淫虫とそっくりだ。
     桜の花弁の奥に入り込んだ、ころりと丸長い虫が、じゅぷじゅぷと偏奇なほどのしつこさで桜の内臓を摩り下ろしている。
     同じように、雁夜に喰らいついた虫も、ねちねちと上下動を繰り返している。

    「あ、うぅぅ、はぁっ、ああん……」

     上擦った声が止まらず、桜は耐え難い羞恥を覚えた。だめ、こんな声をだしたら、きかれちゃう、なのに。

     はふはふと犬のように浅薄な呼吸を繰り返し、どんよりと色情で濁った頭を必死に巡らせて、桜は雁夜が正気を無くして悶え苦しむのを、辛抱づよく待った。

     虫が桜の耳朶を這う。ねっとりと淫猥な音が鼓膜のすぐそばで弾ける。その音色の甘さに、桜は気をやりそうになった。そのとろとろの粘液塗れの虫が桜の悦いところに潜り込み、頭を上下させるのを想像しただけで、桜は足腰が砕けたようになってしまう。

     抑えよう、抑えようとしているのに、体が断末魔の絶叫のようにびくんびくんと痙攣し、鼓動が熱病のように早まっていく。少しでも快感をそらしたくて、桜は足の指に力を入れた。

     しっとりと弾性のある、ぷりぷりの虫が、桜の淫情を求めてめちゃくちゃに太ももを這い回っている。内腿の敏感な産毛を逆立てられ、ぬるぬると扱き立てられて、桜の頭の中には、もうそれが侵入してきたときのことしか考えられなくなっている。

    「ん……っん……っ、く、く・くぅ……っ」

     荒い息を必死に噛み砕いて、桜は肩をわななかせた。

     雁夜はまだ、冷静を保っている。

     桜の理性は、もうとっくに限界を超えている。

     単純な我慢比べなら、いつも桜は強かった。雁夜はへその下を弄くられると、すぐに泡を吹いて失神していたから。雁夜が意識を失っている間だけ、桜はこそこそと虫の与える快感を貪ってきた。

     桜は、もう止めようもないほど腰を揺らしている自分を自覚した。すとんと直線的なラインを描く胸からおなか、おなかから足にかけて、敏感な薄い皮膚の部位に虫が集っている。稚拙な棒人形のような体が、くい、と誘うように捻じ曲げられる。できた曲線は、紛れもなく雄の精をくすぐる類のものだった。

    「……ぁ……っ」

     つまさき立ちでこれでもかというほどふくらはぎを緊張させていた桜は、虫が陰部の肉皮をくにゅくにゅとこするだけの感触に、たまらず喉あごをのけぞらせた。

    「桜ちゃん……!?」

     雁夜の緊張ばしった声が飛んでくる。

    「大丈夫かい、痛いのかい!?」

     桜の体の反応を、苦痛で悶絶していると解釈したようだった。まさか、この年頃の子が情欲にまみれて脳をとろとろに蕩かしているとは、及びもつかないようだ。

    「ううん……なん、でも、なっ……はぁうっ!」

     その勘違いは有難くもあったが、どちらにしろ拷問には違いなかった。

    「カリヤ、おじ、さん、は……? いたく、ないの? つらく、ない?」

    「……ああ。おじさんは、大丈夫だ」

    (困る……)

     桜は内心ひとりごちる。痛めつけられて、苦しんで、さっさと気絶してくれなければ、こちらは安心して虫に体をやれないのに。

    「ひィ……あ、あぁ、はっ、ああああっ」

     油断した。声帯を緩めていたせいで、ダイレクトな媚声がもれた。恥ずかしさにかあっと頬が焼け、反射的に雁夜から顔をそむける。

     虫がぬぷりぬぷりと、桜の繊細な淫肉を犯しぬいていく。

    「桜ちゃん……」

     痛ましそうな、雁夜の声。蔑まれたようで、桜は悲しくなる。かわいそうにと思ってくれているに違いない。

    「………………んっ……」

     雁夜の口からほんのかすかに隠微な声が漏れたのは、その時だった。

     ぼんやりと焦点の外れた目を床にさまよわせ、体を前傾に丸めてしまう。桜から見えないように腰を引き、太ももの隙間に隠した虫が踊るのにあわせて、くぐもった悲鳴をあげはじめた。

     桜はむしろそれを祈念するような気持ちで見守った。

     雁夜の男のものにがっぷりと食いついていた虫が、狂ったように蠕動を早めた。吊るされた男が手枷を激しく打ち鳴らしてこれに耐える。

    「や、めろ、俺は男だ、そんなところに魔力なんか……っ!」

     ぶつり、と何かの皮膚が貫かれる音を聞いた。鋭い悲鳴がつかの間響く。すっかりおとなしくしていたから、もう喉も嗄れはてたかと思っていたのに、雁夜は声帯を裏返しながら身を捩った。
     捩った股座の間に、見た。女のように虫に貫かれている体を。

     びちびちびち、と、虫の尾が蠕動に合わせて喜色を表す。雁夜は胸を掻き毟りたくなるような悲痛きわまる声で泣いた。嗚咽と絶叫の間に切れ切れに挟まれる声を、桜はかろうじて聞き取った。もう許せ、許してくれ、いっそ殺してくれ。

    「あ、はぁっ……!」

     雁夜の声に媚態が混じった。前のものを虫特有の単純運動で扱き上げられ続けた結果、限界が訪れそうになっているのだった。

     桜はそれを、焦れに焦れながら待った。膨大な快感の誘惑に耐え、声をかみ殺し、腰をあるかないかの動きで揺らしながら。

     虫が、鞭のような尾を、媚びた犬のように振りたくりながら、苛烈な性衝動を繰り返す。雁夜はそのたびにがくがくと体を痙攣させた。
     雁夜のものは張り詰めすぎて、竿の部分がほんのりと弧を帯びているほどだった。それがぐぷりぐぷりと虫の口に仕舞いこまれ、また吐き出されている。

    (なんで……どうして、はやく、いっちゃえばいいのに)

     雁夜は顔から首筋まで血の色に染めながら、まだ耐えている。

    (……もう、だめ、かも)

     桜はあどけない顔立ちを今にも泣きそうに歪めながら、そんなことを思った。
     それは、『漏らして』しまうのと変わりないぐらい、恥ずかしい。

     意識すまいと思えば思うほど、虫の執拗な動きが体を苛んだ。

     じゅぷり、ぐちゅり、と、体内を掻き乱される。

    「……ひっ、あっ……」

     予感がする。体の奥から津波のように熱いものがこみあげてきている。
     ちらり、と雁夜のほうを見る。つと、視線が絡まった。
     あわてて逸らした視線や、せめて下半身だけでも見せまいと体を捩る動きで、ようやく桜も察した。

    (おじさんも、はずかしい、のかな)

     そう思うと、なんとなく余裕ができた。雁夜のほうがより陰惨で強烈な責め苦を与えられているのは知っていたし、どことなく、このムシグラでは自分のほうが『お姉さん』のような気がしていた。

     庇護してあげたいような気が、ずっとしていた。

     根負けしたのは雁夜のほうだった。

     恥も外聞もなく雁夜は腰元を前傾気味に突き出して、虫の柔毛に牙を突き立てるような勢いで引きつらせた。そうしてついに雁夜はごぽり、と白い液体を噴き出した。ぱたた、ぱたた、と、虫を被せた先端から汁が滴り落ち、雁夜の足元に水滴を落とす。
     虫が傘状の頭をつのつきあわせ、その落下地点に殺到する。

     雁夜の生体反応に触発されたか、後ろにもぐりこんだ虫が倍の速度で鞭毛を左右に揺らし始めると、雁夜は再びひとたまりもなく絶叫し、ついにはぴくりとも動かなくなった。

     いつもの定めどおり、失神したらしかった。

    (も、もう、がまん、しなくても大丈夫、だよね……?)

    「ん、んんん、あぁっ、はぁっ……」

     そう思うと、桜の中で何かがぶつんとちぎれて飛んだ。

     じゅっぷ、じゅっぷ、じゅっぷ……

    「はぁっ、あぁっ、ああぁっ……」

     とろとろに煮込まれた、あまいあまい虫との交歓が、桜の体を席巻していく。一刻みごとに正気が薄れ、目の前につつじ色の霞がかかる。

     虫がごりゅ、と漸進を開始した。もうそれ以上奥に隙間などないかに思われたのに、狭隘な器官の行止りが無理やりにこじ開けられていく。

    「あ、あああっ、それ、それいいっ、もっともっとぉっ……」

     桜のよがり声があからさまに高くなり、虫がざわざわと共鳴する。
     虫が蜜壷の底を、瓜でも割くようにゆっくりと拡げていく。負荷の限界に、おなかの裏側が鈍痛を訴える。だが同時に、ひとたまりもなく意識が消し飛びそうなほどの、暴力的な快感の予感に、背筋がぞっと凍り、歯の根がかちかちと鳴る。

    「いぃっ……ひいぃぃんっ……! もっとシてぇ、あはっ、あはははっ、すっごいよぉ、なんかすっごいのきちゃううぅぅっ……!」

     恐怖にも似た戦慄と、どばどば洪水のように氾濫する脳内麻薬の強制的な快感が、身体を総毛立たせていく。

    「奥ぅっ、奥をぉっ、奥ごっつんこされるとぉっ、ああっ、へんになっちゃうよぉっ! あっ、あぁっ、ひっ、ふぁあっ」

     ……ずっ、ずっ、ずぬぅっ……
     ねっちりと襞ごと絡めとっていくような虫の『突き』に、桜は夢中になって体を浮かせる。

    「は、あ、あっ、も、すぐ、へんになる、へんになっちゃううぅ……」

     ほとんど肉付きとも呼べないような、ふっくらとしたまん丸のお尻にぎゅうっと力が籠もり、間の襞肉が、大貝の砂吐きのようにくぷくぷと粘液を排出する。その隙間でしゅっしゅっと鞭毛を揺らしている虫のお尻が、内圧できゅっと押し戻された。

     煮込み肉のように柔らかい虫の頭が、のたのたと体を振りながら、ゆっくりと桜の中を割り開いていく。

     ごりゅっ……ぐっ……くぷぅっ……

    「ああぁぁぁんっ!」

     じゅくじゅくになった内壁を這い上がった虫が、子宮口をごつんと叩く。

    「ひ、い、いぃっ……にゃあっ……ああっ……」

     茫洋と揺らしている背中から腰がひときわ深い折り目をつくり、虫の出入りが真後ろからはっきりと覗ける体勢になる。吊るされたままの乙女が半泣きで精一杯身体をくねらかせている姿は、卑猥でありながら、どこか幻想的でさえあった。

    「はぁっ……! あぁっ、くぅっ、はあぁぁぁっ!」

     純白の閃光が瞬き、快感の津波に足を掬われた。震える身体、崩れる足元。手枷に全体重以上の負荷がかかり、痛いぐらいうっ血していく。

    「あぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……」

     ふわふわと、羽毛のような無重力感に絡めとられて、意識が闇に沈んでいった。


    第五夜


     顎をぐうっと噛み締めて、虫が身体を横断するのを耐え忍ぶ。つるつるの茸のような、ぬらつきを帯びた弾力性のものが、桜の胸の上にたかっていく。

     桜は何をするでもなく、蟲蔵に横たわっている。両手首に巻かれた包帯は蟲に食い破られ、すでにぼろぼろになってしまっていた。

     手枷が食い込み、瘡蓋と血まみれになった桜の手を見て、雁夜が丁寧に巻いてくれた包帯だった。

     それから雁夜は臓硯に食ってかかった。桜を蟲以外のことで傷つけたら許さないと啖呵を切るおじの姿に、桜は少なからず混乱した。

    (だめ、そんな風におじいさまに逆らったら、また)

     止めさせようと服の裾を引いた桜に、雁夜はにこりと頼りなげな笑みを返した。

    「大丈夫だよ」

     大丈夫だからと言いたいのは桜のほうだった。このおじは、気弱で蟲にも負けやすくて、すこしも油断がならない人だというのに、なぜか桜を庇いたがる。

     身を挺して飼い主を守ろうとする、小さな犬の仔。なぜだか雁夜は、そんな連想をさせた。

    「よかろう。貴様がそんなにも言うのなら、今日より桜の手枷は外して進ぜよう。なに、桜はじつに模範的な良い苗床じゃ、このぐらいの褒美はつかわせんとの。
     ただし、雁夜、貴様は許さぬ。
     今宵より一層倍、蟲の責め苦がその身を焼く。気張るがよいぞ雁夜、貴様が魔力を蟲に吸わせれば吸わせるほど、桜の負担は軽くなるんじゃからのう」

     雁夜は臓硯を、無言のまま睨みつけて応酬した。

     そんな風にして、雁夜が勝ち取ったささいな譲歩は、拷問になって跳ね返った。

     ――先ほどから、雁夜は狂犬のように喚き散らしている。

     自身の内圧で爆発しそうなほど反り返った雁夜の逸物が、蟲の経口部にぐぷりと飲み込まれている。そこに散々しごきたてられているのに、根元を食い締める蟲が放出を許さない。

     放出を散々煽られながら許されず、雁夜はずっと泣いていた。

    「よしてくれ、気が狂いそうなんだ、いっそ痛めつければいいだろう! 腹ん中なんてまさぐって何になる!!」

     狂いそう、なのではなく、おそらくとっくに狂わされているのだろう。蟲が脳を貫通し、そこに巣食えば、万華鏡のように現実と桃源郷がきらきらと入り混じったようなものが視えてくる。

    「あ……がぁっ……もう……やめてくれ……」

     涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔に隠しがたい恍惚の色を浮かべて、雁夜は泣き喚く。

    「はっ、はっ、はっ、あっ、かはっ、ぐうぅっ……」

     雁夜が紡ぐ荒い息に、桜は陶然と聞き入った。それは感じ方が深まって、最後の最後、引っ張られるようにして高みに上り詰める時にしか出せない声色だった。

    (カリヤおじさん、気持ちよさそう)

     寝そべる桜の身体は、雁夜と同じように蟲が犯し続けている。前後動をする虫のじゅぷじゅぷという性急な水音が耳に心地いい。

    「裂ける、はぁっ、あぐううぅっ、はれつ、する、たのむ、お願いだ、出してくれ、外して、これをっ、はやくっ!」

     堰き止められ、赤黒く染まった怒張を蟲が毛細血管の一本一本をも慰撫するようにじっくりと丁寧に篭絡していく。

     いつも丸ごと蟲に飲み込まれ続けていた先端が、ぷるりと外気に晒されていた。
     蟲そっくりの肉茎の先端がてろてろと濡れそぼっている。こぷっ、と、薄い切れ込みからまた粘液が排出された。

     そこから、何かが出たがっている。

     根元の色が変わるほど締め付けているのは、一匹の蟲だ。自分の口で尾を喰らい、輪になって締め上げている。

     かたかたと尋常じゃないぐらい手足が震え、雁夜の顔が血の赤から土気色へ。

     蟲が口から喉の奥へ侵入していき――

     ぶっ、と、雁夜の鼻から血が噴いた。

     ぐるん、と目玉が裏返る。

     ――ガシャアッ!

     手枷を中心に、全身の筋肉が弛緩した雁夜がぶらさがる。

     失神、したのだろうか。

     桜はむくりと身体を起こした。何かが桜の心にじわりと不安を流し込んだ。

     ――いつもの失神にしては、何かがおかしい。

     雁夜はあらぬ方向にこうべを垂れて、かっと目を見開いていた。

     それはまるで、魂が、抜け落ちてしまったかのような。
     
     桜はわけもわからずぞっとした――膨れ上がる恐怖心を抑えきれず、雁夜のそばにそっと歩み寄る。
     手を、雁夜の土気色の足に、触れてみる。想像以上の冷感が肌から伝わった。

    「カリヤおじさん……?」

     ゆすゆすと、その身体を前後に動かしてみる。

     頬や胸には手が届かなかった。桜の目の前、手の届く範囲にあるのは、雁夜の――
     そこは、蟲が根元を緊縛したままだからなのか、いまだに隆起を保っていた。

     どす黒くさえあるその塊。
     蟲がいつも捕食して放さない、雁夜おじさんの美味しいところ。

    (ムシさんは、魔力がだいすき……)

     桜の身体を食い破り、鋳造するのは、桜の魔力が極上の栄養だからだ。

     雁夜のここも、ムシの栄養になるのだろう。

    (わたしのエイヨウ、カリヤおじさんには分けてあげられないのかな……)

     魔術の仕組みも知らない桜は、おぼつかない知識のピースを必死に組み上げる。

    「カリヤおじさんって、バカなひと」

     おじい様だっていつも言っているではないか。間桐に逆らったものはこうなるのだって。

    「……ホウタイなんて、いらなかったのに」

     どうせまた蟲に傷口を食われてずたぼろになるだけなのだから。

    「……でも、はじめてだった。わたしのこと……」

     桜のことを、父や母――トオサカさん家にいたころのように、ムシの餌として扱わなかったのは。

     雁夜だけだった。この家では、雁夜だけが桜を子どものように甘やかしてくれた。

    「……死んじゃ、いやだよ。カリヤおじさん」

     初めて蛍を見せてもらった日の翌朝、もう光らなくなってしまった虫を見て、桜ははじめて死の深淵の底深さを覗いた気がした。『誰かがもういなくなる』ということの怖さを知った。

     父や母や姉は、突然いなくなった桜のことを、どう思ったのだろう。

     今の桜のように、少しは涙を流しただろうか。

     誰にも省みられないのは寂しいことだ。雁夜を大切にする人がいないならば、桜がそうしてあげたっていい。

    「……わたしのエイヨウ、分けてあげる。だから、元気だして」

     雁夜の栄養源に、桜は唇を寄せた。

     近くで見れば見るほど、それは虫とそっくりの姿をしていた。違うのは、虫の経口部だと思われる大きな切れ目がないことと、血の色をしていることだ。充血しきった粘膜がきのこのような笠を張り、うっすらと開いた管の出口が切なげに開閉を繰り返している。

     珠のような粘液がとろとろと吹き零れるそこへ、桜は吸い付いた。

     びくん、と、激しすぎるほどの脈動を感じた。

     見えない力の流れが、桜から何かを根こそぎ奪い取るのでさえ、うっすらと自覚した。不可視の力が、雁夜に生命を巡らせる。

     雁夜の漏らしている透明な滴りは、悪くなった食べ物のような味がしたが、桜にとってはどうということもなかった。虫のほうが、よほどひどい味がする。それが口腔いっぱいにねじこまれ、顎が外れるのではないかというほど酷使させられる。
     厳重に吐精を封印されている強張りへ、ぬろり、と舌を這わせていく。たったそれだけの動作で、雁夜のものは再び、びくん、びくんと跳ねた。

     桜のちいさな口には、何も入りきらない。ただ一生懸命、唇をめくれあがらせて、舌を動かすだけだ。

     ……ちゅっ……くぷぅっ……ぬぽっ……

     無心に舌を動かし続け、太い幹の筋にいくつも愛撫のあとをつけていく。

    (これを、はずしてあげれば……)

     根元をしめつける虫に、指をかける。丁寧に、丁寧に、力をこめる。尾を食い締める虫の頭にも辛抱づよく唾液をまぶし、決壊を促していく。

     桜が行為を繰り返すごと、虫の戦慄きは強くなっていった。

     期待に気が急いて、桜の奉仕も懸命になる。ちゅぷちゅぷ、と浅い口付けだったものが、唇を使って深くくわえ込む動作に移り、さらさらの髪の毛を激しく揺らして舌なめずりを繰り返す。

     天使の輪を崩すほど頭を傾けて、側面をぬるぬるにしていく。

     とうとう、虫がざわりと蠢き、一個の生命体であることを取り戻した。虫が自らの尾を離し、桜の体に這いよってきた。

     ぶるり、と抑えつけられていた衝動が出口を見つけ、桜の吸引に誘発されて、爆発した。

     びく、びく、ぶるる……っ、長い尾を引きながら脊髄反射運動が続き、桜の口いっぱいに、そこが満杯になると鼻や眉間や前髪に、溜まりに溜まった白濁液が発射される。

    「…………ぁ……?」

     ひゅう、と呼吸音がした。

     雁夜の胸部が自然な上下を再開させ、とくんとくん、と、体に血液の循環が戻ってくる。

     桜にたかっている虫がふと動きをとめ、磁石に吸い寄せられでもしたかのように、再び雁夜のもとに集っていく。

     それは、桜が念じたとおりの動きだった。

    (……動いて。動いて……カリヤおじさんを、元気にして)

     桜の思念が、虫を従えた。

     虫が雁夜の体を貫き、もぞもぞと体内を抉っていく。

     子どもじみたあえかな鼻や唇の稜線に、べっとりと白濁を纏わりつかせ、桜はほの暗い笑みを浮かべる。

    「あはっ……元気になったね」

     可憐に頬を染めた桜の、その瞳だけが、ぞっとするほど年老いていた。

     後ろの穴をまさぐらせ、強制的に勃たせたものを、桜の花弁のような唇が粛々とついばんでいく。

    「……んむっ……ちゅっ……ちゅるっ……ちゅ、ちゅ……」

     鮮やかに色づく欲の棒を、桜が目を細めて味わいつくす。

     硬く凝り固まった陰茎が、桜の口腔を暴虐に満たしきり、喉の奥まで蓋をする。それを苦労してゆっくりと吐き出すと、またたっぷりと時間をかけて飲み込んだ。

     根元の括れたところまでを食らいつくすと、上あごや舌を、一分の隙もなく、肉塊が占領した。涙目になりつつ、精一杯膨らませた口腔内でぐぷりぐぷりと擦りあげながら、雁首を丁寧に抜き取っていく。


     潤滑液を多量に滴らせた太棒が桜の小さな頬をいっぱいに膨らませ、奥まで到達するやいなや、ヌルリと多大な質感の跡を残して引き抜かれていく。

     濡った亀頭をちゅぷんと離し、ぷはっと息継ぎを入れて、桜は再び行為に没入していった。

     先端を唇で扱きあげ、ゆっくりと中胴をせり上がり、舌の付け根までを肉竿で塞ぎ、喉の奥までいっぱいにして、口全体でぬるぬるの愛撫を施す。

     同時に、後ろの穴から、虫の尾がしどけなく垂れ下がっているのが見える。くぷり、くぷり、と、水音を立てながら、一定のペースで揺れている。

     無理やり押し上げた性感が、雁夜の体を痙攣させた。

     間をおかず、雁夜の体から熱い精がこみ上げてくる。

    「んっ……ん、う、うぅ……」

     ちいさなおとがいの裏側でたっぷりと受け止めながら、桜は、自分の体からエイヨウが抜けていくのを感じ取った。

     世界が黒く裏返り、意識が遠くなっていく。



    第六夜

     それからというもの、雁夜のものを味わうのが、桜のひそかな楽しみになった。

    「んっ……」

     桜の体の上を虫が徘徊し、体を咀嚼・嚥下する。
     痛みはとうに感じなくなった。脳に巣食う虫がそうさせたのかもしれないし、あるいはまったく別の理由で麻痺しているのかもしれない。

     桜は忘我のまま、目の前の雁夜の狂態を見つめていた。

     ひざ立ちにされた雁夜が、両手を拘束されたまま、尋常でない快楽に背筋をのけぞらせている。

    「もう、やめてくれ……っ! 堕ちたくなんか、ないんだ……!」

     人倫に悖ること、そのものが辱めだった。雁夜の下半身は反復する拷問に耐え続けた結果、快とも悦とも反応するようになっていった。

    「やだ……っ! もういやだ……! やなんだよ……」

     虫の侵食が深まるにつれて、雁夜の訴えはどんどん虚勢が剥がされ、子供のようになっていく。

     ひくり、と、隠し切れない嗚咽が喉を震わせる音さえ、虫の足音だけが木霊する冷たい土蔵に、粛々と染み入っていく。

     極大の苦業と苛烈な法悦の繰り返しに、雁夜は前後不覚に陥っていく。

    「あ、おいさ、ん……」

     なぜだか雁夜は桜の母の名を呼ばわった。

     それっきり、静寂が戻ってきた。

    「カリヤおじさん……?」

     問う桜の声に、答えはない。

     年老いて、澱みきった桜の瞳が、ただ雁夜のそれを見つめるときだけは、狂ったような熱情を込めて燃えている。

     桜は虫がうぞうぞと集る身体を大儀そうに持ち上げて、ふるりと小さく身震いをした。頭をいっぱいに占めているのは、興味が尽きない、あれのこと。

     雁夜が耐えに耐え、未だ解き放つことすら許されない、肉筒の熱い滾り。

    「……」

     手首に枷をかけられ、ひざ立ちにされた雁夜の陰茎を、虫のくびきが深く封じている。

     桜が触れると、虫はぱらりと解けて落ちた。

     強制的に番わされた後孔の虫が、桜の意思を受けて、一層激しく沖送を繰り返す。

    「カリヤおじさん、ちょっと顔色がよくなったね」

     桜は精一杯背伸びをし、みかんをようやっと片手でつかめるような、小さな手のひらで雁夜の頬に触れた。

     苦界の色を帯びた頬を眺めていると、桜は心の裏側を引っかかれたような気持ちになる。甘くくすぐるような、官能にも似た愉悦の感情。

     今までは、桜は哀れな被食者だった。ただおじい様の言うことを聞き入れ、虫に身を任せるだけの、生きた苗床。それが桜だった。

     でもそれも、雁夜という遊び道具を手に入れるまでの話だ。

    「もっともっと元気になって。そして……」

     うふふ、と桜は熱く濡れた笑みを零す。

     独り言を最後まで漏らさずに打ち切ると、桜はゆっくりと胎内から虫を追い出した。濡れ襞を掻き毟るようにして抵抗する虫に、桜は情と欲をかきたてられる。

    「んっ……うっ……」

     排熱が篭り、茫洋とする頭に、雁夜のものが誘欲的な引力でちらつき始める。

     ふらふらとおなかを寄せて、その滾りにへそをこすりつけた。

     熱い雁夜の肌と、その間に、大きく膨れ上がったものの存在を感じる。

    「ああっ、はぁっ、はぁっ……かりや、おじさぁん……」

     犬のように浅ましく舌を突き出して、虫食いだらけの雁夜の耳に口をつける。血と、虫の分泌液と、雁夜の清浄な肌の味がした。

     桜はたまらなくなって、腰を無理やりひねり、雁夜の亀頭に下腹の淫肉の合わせ目をくっつけた。

     虫よりずっと硬く張り詰めた人肌の感触に、桜は背筋をぞくぞくさせた。

    「おじさんのここ、とってもあったかいから、好き」

     虫は、ただ機械的な冷たさを纏っているだけだ。雁夜なら、確かに触れているという感じがする。

    「心のおくまでくっついちゃうみたい。わたし、カリヤおじさんのここ、だぁいすき」

     お尻を無理のある高さまで上げて、桜はゆっくりと、つま先から身体を沈めていった。

    「……あ、あ、ああぁぁ……っ!」

     ぐぷり、と肉杭が打ち込まれていく。解されきって空洞がちになっていた中襞が、気泡まじりの淫猥な音を立てて満たされていく。

    「あっ、はっ、はっ、はぁっ、これ、これすきいぃっ……!」

     粘液まみれのざらついた肉を無慈悲にすりつぶし、肉棒が奥まで拡がっていく。茂みをまとった根元までを一気に貫かせて、桜は身体をぶるぶると震わせた。全身が総毛立ち、陰鬱さと凶暴さが入り混じったような、破滅的な快感が桜を炙りたてていく。

    「……あぁっ、はぁっ、はぁっ、ううぅっ、うくぅっ、いっ、いいようぅっ……」

     桜はうっとりと声をあげる。

     足の間で重たく熟れた音を立て、雁夜のものが埋没していく。柔肉の襞が吸盤のようにそれを吸い尽くし、みだらに絡みつく感触に、桜は犬歯をのぞかせて笑う。

     ほっそりした首にわなわなと震える指を絡みつかせて、桜は腰をくねらせていく。
    「あぁっ、あぁぁっ、よすぎ、よすぎて壊れちゃうよぉっ……」

     淫堕な杭を引き抜いていく時の甘い感触にうっとりと目を細め、頬を花の色に染めて、やがて送りと迎えの間断がなくなっていく。ゆっくりと秘肉が纏わりつく感触を味わうように上下していたからだを、乗馬のように熱く激しく打ち付けていった。

     溶けたようになる媚肉に、怪異のような浅黒い塊が分け入っては引き抜かれていく。その硬い圧力が、ぬめる肉を絡めとり、また浅い入り口まで抜けていく。

    「ひっ、はっ、あはっ、あはははっ、なんかもーだめっ、すっごいのきてるうぅぅっ、いぃっ、ひいぃぃん!」

     傘の張った先端で肉を包む割れ目の皮をくりゅくりゅとこすりたてつつ、桜は昂ぶる熱を逃がそうと試みる。

    「もっともっともっとシたいよぉっ、お願いだからぁっ……」

     狂情が透けて見える蕩けた瞳で、桜は胴を淫猥にしならせる。

     迎え入れた強張りが桜の最奥を打つ。とろけそうな痺れにくらくらしながらそれをぐぷりと引っこ抜く。さらに奥の窄まりを打つ。それをさらに時間をかけてずるりと抜き去っていく。

     意識を失って深くこうべを垂れる雁夜の首に腕を回し、桜は浅く早い息をつむぐ。

     体格差のある相手とより深くまぐわうために、恥骨をみだらに突き出し、腰を深く折り曲げて、ぐぷぐぷと淫音を響かせていく。

     没頭を邪魔するものなど、今やどこにもいない。

     虫でさえ、桜は従えるすべを知っている。

    「もういぃっ? もうとんじゃってもいい? わたし、もう、あぁっ、あああぁぁぁっ!」

     喜悦一色に面貌を染め、桜は断末魔にも似た声をあげて、高みへ上り詰めた。

     淫襞が暴虐的な瞬きを繰り返して、桜の腰がねじり切れそうなほど曲がり、震える快楽を貪りつくす。

     丸みを帯びた拳が雁夜の胸にしがみつき、びくんびくんと痙攣をして、やがてくたりと力を失っていった。

    「んんん……ふ……うぅ……」

     余韻が抜け、ぎゅうぎゅうに閉じてゆく膣口に、食い込んだままの大きな逸物が、しだいに脈打ちを強くしていく。質感を増すそれに、桜はぐったりしながら身悶える。

     桜が送り込んだ魔力が、雁夜の身体を活性化させていく。

    「あっ……やぁっ……」

     達したばかりで敏感に収斂する中で、暴発寸前の猛りが、桜の揺さぶりを誘うように存在感を示している。

     むずむずするような感触に、桜は陶然と眼を細め、ゆすりゆすりと腰を上下にすり合わせていく。

     なりをひそめた淫楽が、火をつけられたように鮮やかに燃え滾る。

     身体を引いて抜こうとすれば、中が裏返るのではないかと思うほど、柔襞が剛直に絡みつき、ねっとりとしごきあげる。

     身体を押して受け入れようとすれば、おなかが全部それを満たされてしまうのではないかと思うほど、陰茎が媚肉の秘奥をずぬりと埋め尽くす。

     淫らな協和音が性急な動きでかき鳴らされ、肉棒が出入りと行き来を繰り返していく。

     刺激をもとめて狂おしくひくつく割れ目の襞に、たぷんと根元の肌が当たる。秘芯が擦り付けられて、桜は身体の芯からぶるりと震えた。

     怒涛のように押し寄せる新たな情欲の火が、桜を狂うように咲かせていく。

    「ひぃんっ……い、や、はぁっ、あぁっ、あぅっ、うぅぅっ……」

     ゆさゆさとゆりかごのように行きつ戻りつをする桜の動きに応じて、濡れそぼった秘裂が喜悦めいた情感をひっきりなしに覚えさせる。

     桜はおぼろげな意識のなかで、カリヤおじさん、と名前をよんだ。

     雁夜をいたぶっている間は、少なくとも桜は被食者ではない。
     弱くてもろい、否定したい自分ではなくなって、おじい様の側に立つことができる。

    「元気になって……そして、わたしのために、いっぱいくるしんで、ね」

     甘い睦言のように囁きかけると、桜は柳のような腰をいとも卑猥に揺らめかせて、激しく打ち付けていった。

     激しく、狂おしく、深く、桜は番わせた身体をゆすぶっていく。

     延髄までどろどろに溶け出しそうな激しい性感が桜を焼き焦がしていく。

    「ああああっ、いっ、いっちゃううぅぅっ!」

     浮かせた腰から重たいくぐもりをとどまってぐぷりと雁夜のものが抜けていき、それで桜は再度達した。

    「あああっ、ああっ、あーーーーーっ……!」

     雷撃のような閃光が何度も脳内で瞬いて、桜はがくがくと身体をゆさぶった。

     エイヨウを与えすぎて、桜の意識は暗く落ちていく。


    最終夜


     夢を見ていたような気がする。

     雁夜は、葵がやさしげな手つきで自分の頬をなぞっているのを淡く幻視した。

     その目に隠しきれない淫情と媚びを含ませて、葵が雁夜の身体に触れる。

     くちづけた唇の感触はいやにはっきりしていて、薄い唇の肉は、子どもと間違うほどに小さく、あどけなかった。

     子猫のような舌が耳を抉り、首筋を辿る。熱い吐息をはらんだ舌が、ちろちろと懸命な奉仕を胸や腹に与えていく。

     そっと手を添えられた下半身は、期待ですでに滾りきっていた。

    「……あっ……」

     夢のように遠いどこかで、雁夜は自分の声を聞いた。

     無様に裏返る隠微な吐息に、葵はくすりと微笑んで、太ももの間のとろけるような肉の合わせ目を、そっと慎ましやかに押し広げる。

     そのどこまでも柔らかな媚肉の抱擁を、下半身の強張りいっぱいに受けた瞬間、

     しゃぼん玉がはじけるように、虹色の幻視が壊れて消えた。

    「はぁっ、はぁっ、あぁっ、あーっ、はーっ……」

     発情しきった、しかし幼い子どもの声だ。それがすぐそば、耳元で弾けた。

     沸騰しそうな呼吸が、ごく間近で繰り返されている。

     ぼんやりと像を結んではにじんでいく、定まらない焦点。

     喜悦まみれの声をあげながら、何者かが自分に跨っている。

     小さな身体が、ゆさゆさと揺れていた。

     猿のように小刻みに、また、動物的な快楽に突き動かされるようにしながら。

     アーモンドのようにくっきりときれいな弧を描いた瞳が、こちらをうっとりと見上げている。

     白目をうっすらと充血に赤くして、濁った色の瞳を暗い喜びに染めながら。

     その目は、恋焦がれていた葵に、ひどくよく、似ていた。

    「かりや、おじさぁん……」

     溶け切った声が自分を呼ぶ。

     とたん、ざあっと潮のように雁夜の血の気が引いていった。

    「あぁっ、いい、すっごくいぃ……」

     それは、雁夜が命を削ってでも守りたかった声。

     雁夜は、見た。

     狂気をはらんだ愉悦の表情で、一人遊びのように、雁夜の上にまたがる桜を。

     漏れ聞こえるその声は、艶を帯びて濡れていた。

     雁夜は頭蓋を割られたような衝撃に、ぎゅっと目をつぶった。

     同時に背骨が焼ききれるような痛烈な快感がせり上がってくる。

     雁夜は矛盾する外界の情報を受け入れきれず、すべて遮断してしまいたい衝動にかられた。

     命を絶てば、それも適うかもしれない。

     髪が雪のように白くなろうと、苦痛で眠ることも忘れようと、耐えてこれたのは、桜を守るという目的があったからだった。

     彼女の心が絶望で折れてしまわないことを祈りながら、少しはその役に立てるかもしれないという気概すら持っていた。

     ここまで、変わってしまったのか。

     まだ恋も知らない、親の愛でさえきちんと感じることもままならなかった少女が。
     雁夜が与える情欲を、ただ与えられるまま貪っている。

     何をかを知らず、雁夜の胸のうちが、真っ黒に塞がれていく。

     決壊したように、おのが涙腺から分泌された液体が、視界を急速に濁らせていくのを感じた。

     ぱたり、と音を立て、涙が桜の頬にはじける。

    「……カリヤおじさん? ないてるの?」

     いぶかしんで見上げてくる、薄紅色の頬をした桜。

    「だいじょうぶだよ。わたしが、もっといっぱいエイヨウをあげる。ね、だから、元気だして」

     桜が見せる狂った気遣いに、雁夜はえづきをこらえきれず、声をあげて、泣いた。

    「さ、くら、ちゃん……っ!」

     すすり泣きが、ひくひく鳴る喉から搾り出される。涙は絶えず流れ続け、桜の頬にいくつもつめたい雨を降らせた。

    「どうしたの? どこか、いたい?」

     タールのように冷えて固まっていく心に反して、身体は与えられる芳醇な媚肉の感触に喜悦を覚えっぱなしだった。

     なにもかも、無駄だった。

     いっそ、終わらせたほうがいい。

     自己嫌悪と悔悛と破滅への衝動とがいっぺんに湧き上がった。

     桜がくぷくぷとひたむきな前後動を繰り返し、雁夜に肉の悦びを与えてくる。

    「あはっ……ほらぁ、キモチイイことしたら、いたいのなんてとんでけとんでけーってなっちゃうんだよぉ……カリヤおじさんも、キモチヨくなろうよぉ……」

     罪悪感と自殺願望を絶妙にブレンドされて与えられる極上の官能は、雁夜の心を壊すのに十分なほどの鋭さを秘めていた。

    「……あははぁっ……ここにあたるととってもいーよ……」

     わけのわからないおののきに突き動かされて、雁夜の手が、桜の細い喉首にかかる。締め上げるのにも、わけはなかった。

     酸素を急に奪われて、桜はきゅっと瞳孔を縮め、

    「お、じさ、ん……」

     魚のようにぱくぱくと唇をうごかす。

     同時に桜の内奥もぎゅうっと搾乳するように縮こまり、雁夜はひどい眩暈を覚えた。

    「……ばかな、ひと……とってもよわいのに、わかってないんだね……」

     桜の唇が、なおも何かを伝えようと動く。

    「……ゆめでも、みてればいいんだよ……」

     その言葉を最後に、雁夜の意識は虹色の皮膜につつまれた。


     ――葵が、雁夜の上で動いている。

     夫にでもするように、熱の篭った愛を囁きながら。



     いまや桜が従えた虫は、自在に雁夜を幻惑させるまでになっていた。

     再び夢うつつをさまよいはじめた雁夜を見上げて、桜は呟く。

    「……カリヤおじさんは、わたしが守ってあげるんだから」

     屈折の果てにたどり着いた偏愛の情を込めて、桜はそっと、雁夜にくちづけた。






    2012.06.19 第一夜、第二夜。

    2012.06.27 第三夜、第四夜。

    2012.06.28 第四夜加筆。

    2012.07.03 第四夜、第五夜。

    2012.07.12 第五夜加筆。

    2012.07.17 第五夜、第六夜、最終夜。完結。

    2012.08.01 第一夜残して取り下げました。
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    Date:2013/09/24
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    Thema:二次創作:小説
    Janre:小説・文学

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